研究課題/領域番号 |
19K06542
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
建部 恒 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (00596819)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | TORC2 |
研究実績の概要 |
PI3K - Akt シグナル経路の異常活性化は、ヒトの様々なガンの主要因の一つとして知られる。このPI3K-Akt経路を構成する重要な因子の一つがTORキナーゼ複合体2(TORC2)である。インスリン等の成長因子に刺激された細胞では活性化したTORC2がAktをリン酸化する。しかしながらその分子機構の詳細や制御については未解明なところが多い。TORC2活性に重要と考えられているTORC2の膜脂質局在能については、出芽酵母での解析結果などからTORC2制御サブユニットSin1が有するPHドメインの膜脂質結合能に依ると一般に考えられている。ヒトの代表的なTORC2基質であるAktが自身のPHドメイン依存的に膜脂質に結合する事も、TORC2によるリン酸化に重要な役割を果たしていると考えられている。また、酵母、真菌類のAktホモログはヒトAktと異なりPHドメインを欠いているが、出芽酵母での解析から膜脂質に結合するアダプタータンパク質を介して出芽酵母Aktが膜脂質に集積する事が報告されており、TORC2基質の膜脂質への集積はTORC2による基質リン酸化に普遍的に重要な要素だと認識されている。このような背景を基に、分裂酵母Schizosaccharomyces pombeをモデル生物として改めてTORC2制御サブユニットSin1のPHドメインを含むカルボキシ末端領域の詳細な機能解析を行ったところ、Sin1 PHドメインがTORC2機能に果たす役割は限定的であり、TORC2の脂質膜局在にも必須では無い事を示す結果を得た。また、分裂酵母Aktホモログが生体内で脂質膜へ集積する事は無かった。これら結果は、出芽酵母や哺乳類培養細胞など限られた材料での解析から提唱されている現行のTORC2によるAktリン酸化制御モデルに一石を投じる結果であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分裂酵母をモデル生物として行ったTORC2制御サブユニットSin1のPHドメインの機能解析および分裂酵母Aktの細胞内局在解析は一部結果を本年度に出版した(Morigasaki et al, 2019 J Cell Sci)。また、TORキナーゼの類縁キナーゼATMの必須活性化因子MRN複合体の遺伝学的解析も行い共同研究成果として出版した(Tatebe et al, 2020 Nat Commun)。
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今後の研究の推進方策 |
TORC2制御サブユニットSin1とAktとの直接相互作用インターフェースの解明の試みとして化学架橋法や生体内光架橋法等の架橋実験と分子遺伝学的解析、試験管内での解析を引き続き行う。また、Sin1-Akt直接相互作用インターフェースの詳細な解明に有用なタンパク質立体構造解析の準備を引続き進める。TORC2とAktとの直接相互作用を促進する事でTORC2によるAktリン酸化を亢進することが知られている低分子量Gタンパク質RAB6について、分子遺伝学的解析や試験管内アッセイ等でTORC2とAktとの直接相互作用を促進する分子機構を引続き解析する。TORC2の活性化に重要と考えられている細胞膜局在能を、モデル生物である分裂酵母を活用しつつ分子遺伝学的手法等により引続き解析する。また、分裂酵母での遺伝学的解析からこれまでに存在が示されているものの未同定のTORC2活性化因子について、遺伝学的探索等を引続き試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究成果の発表を目指し論文を投稿したNature Communications誌への掲載費用を本費目より賄う必要が考えられたため年度末近くまで相当額を残していた。しかしながら最終的に共同研究者の所属機関より掲載費用の支援があり支払う必要が無くなったためにかなりの額が次年度使用額として繰越になった。次年度の比較的早い時期に、当初は本年度に計画していた機器等の購入を行う事を予定している。
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