研究課題
老化に伴い細胞は特殊な代謝状態を取ることが知られているが、これまで老化代謝を対象にした解析はあまり行われていない。そこでわれわれは独自に開発した次世代プロテオミクス技術(iMPAQTシステム)を駆使してがん遺伝子誘導老化過程で起こるタンパク質発現量変化を網羅的に追跡したところ、特定のアミノ酸生合成経路における大規模な代謝ネットワーク構造の変化(代謝リモデリング)が起きていることを見出している。本研究課題では、3種類の老化誘導モデル(複製老化、酸化ストレス誘導老化、がん遺伝子誘導老化)を構築し、これら細胞老化における全代謝酵素の発現量情報を定量的に取得する。同時に代謝物量や転写産物量の計測により取得した情報を加えることで大規模定量情報として統合する。細胞老化で共通あるいは各種細胞老化で特徴的な代謝ネットワークを明らかにし、さらにその主因酵素を導き出す。最終的には、これら酵素の介入実験を行うことで老化制御の確認を行うことで、老化制御の分子機構の解明に貢献することを目的としている。令和元年度は細胞老化モデル細胞の樹立と全代謝酵素関連タンパク質の情報基盤多重モニタリング法の解析を進めている。モデル細胞に関しては、3種類の老化細胞を同一細胞株から予定どおり樹立することに成功した。解析中の情報基盤多重モニタリング法では、がん遺伝子誘導老化過程での特定アミノ酸生合成経路の大規模な代謝ネットワーク構造の変化も再現良く検出された。
2: おおむね順調に進展している
令和元年度は、細胞老化モデル細胞の樹立と全代謝酵素関連タンパク質の情報基盤多重モニタリング法の条件検討を行なった。細胞老化モデル細胞に関しては、条件検討を行うことで、3種類の老化細胞を同一細胞株から安定的に樹立することができるようになった。現在、これらモデル細胞に対する全代謝酵素関連タンパク質の情報基盤多重モニタリング法の解析を進めているところであり、もうすぐ終了する予定である。よって本研究計画は順調に推移していると考えている。
樹立済みの細胞老化モデル細胞に対して全代謝酵素関連タンパク質の情報基盤多重モニタリング法の解析を継続して行い、そのデータ解析を基に細胞老化に共通あるいは各種細胞老化に特徴的な代謝ネットワークを見出すことを目指す。当初の計画にはなかったが、3種とは異なる老化誘導モデルも樹立することができた。これを今後の解析に加えることで、取得データを拡充する予定である。
昨年度の所属研究機関の変更に伴い、研究設備の準備等に時間を要している。そのため本年度実施を予定していた、代謝物および転写産物の網羅的定量およびトランスオミクスデータ統合実験を来年度以降に実施できるよう予算と研究計画を変更した。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
Nat Commun
巻: 11 ページ: 1320
10.1038/s41467-020-15136-9
Oncogene
巻: 39 ページ: 2170, 2186
10.1038/s41388-019-1139-1