研究実績の概要 |
がん細胞が分泌する「エクソソーム」は、がんの進行を促進する因子である。研究代表者は、がん細胞の糖代謝で重要な「ワールブルグ効果(好気的解糖系)」が、がん由来エクソソーム小胞の分泌に果たす役割を明らかにする目的で、ヘキソキナーゼ (HK) の阻害剤である2-deoxyglucose (2-DG) を用いて細胞を処理した。その結果、がんエクソソームの分泌量が減少することがわかった。しかし、実験に用いたがん細胞に発現する主要なHKをノックダウンしても(HK活性で80%減弱)、がんエクソソームの分泌量は減少しなかった。このことから、2-DGはワールブルグ効果の阻害ではなく、他の経路を阻害する事でエクソソームの分泌を抑制することが示唆された。この点に関して、2-DG処理によって起こる細胞内糖代謝経路の変化を詳細に解析した結果、2-DGはN結合型糖鎖修飾を阻害することによって小胞の分泌を抑制することがわかった。さらに、2-DGによって分泌抑制される小胞内の積荷タンパク質を解析した結果、bona fideエクソソームの積荷タンパク質であるテトラスパニンタンパク質(CD9, CD63, CD81)は変化しないが、Met, Adam10, Lamp1, tyrosinaseなどのタンパク質の分泌が大きく減少した。このことから、2-DGは、N結合型糖鎖修飾を阻害することによって、がん細胞から分泌される非エクソソーム小胞を抑制することがわかった。 この結果を受け、今後、非エクソソーム小胞の分泌制御に関わるN結合型糖鎖修飾酵素の同定を行うとともに、分泌制御機構を明らかにする。
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