研究実績の概要 |
本研究の研究対象であるMrp型Na+/H+アンチポーターは、多くの細菌や古細菌に普遍的に存在する(Ito et al., Frontiers in Microbiol., 2017)。また、細菌感染症を引き起こす黄色ブドウ球菌や緑膿菌では、mrp欠損株がマウスへの感染率と病原性の低下を引き起こすことが報告されている(Vaish et al., J.Bacteriol., 2018)。このようにMrpは、感染症や多剤耐性菌予防の有望なターゲットタンパク質として注目される。研究代表者は、これまで黄色ブドウ球菌由来のMrpの機能解析を行ってきた。そこで、創薬研究にも直結する黄色ブドウ球菌由来のMrpを用いて、このNa+輸送経路に特異的な阻害剤を探索するため、低分子化合物ライブラリーを活用して特異的な阻害剤の探索及びその作用機序の解明を本研究の目的とした。 2021年度も前年度から引き続き阻害剤探索を行った。 テーマ1ではNa+/H+アンチポーターを欠損させた大腸菌KNabc株に、黄色ブドウ球菌由来のmrp遺伝子を発現させ、Na+耐性の差を利用する阻害剤の候補化合物の再現性実験を行った。テーマ2では、Mrpを発現させたKNabc株から反転膜を調製し、蛍光消光法によるNa+/H+アンチポート活性を指標にテーマ1の候補化合物の添加の有無でMrpのアンチポート活性の測定系の検証を試みた。 テーマ1では、5つの候補化合物について再現性の実験を行い、1つの候補化合物に再現性が確認できた。今後、この化合物を使った濃度依存性や実用的な薬剤濃度で期待される抗菌活性の確認など基礎データ収集を行う予定である。テーマ2に関しては、候補化合物の自家蛍光のため、反応測定系で使用するアクリジンオレンジの蛍光の測定が妨害を受けることが確認された。2次スクリーニングの測定系を改善することが課題となっている。
|