研究課題/領域番号 |
19K06551
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
山中 一也 関西大学, 化学生命工学部, 准教授 (30756870)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | D-アミノ酸 / D-ペプチド / プロテアーゼ / 新規酵素 |
研究実績の概要 |
これまでにD-アミノ酸だけから構成される長鎖ペプチドを分解し得る天然のペプチダーゼに関する報告はない。しかしながら、D-ペプチドを分解し得る酵素を見出すことができれば、逆反応を利用した生理活性D-ペプチドの合成技術としての応用も期待できる。このような背景下、申請者らは、天然物としては唯一の例となるD型アミノ酸のみから構成される長鎖D-ペプチドを生産する放線菌Streptoalloteichus hindustanusが、細胞表層にD-ペプチド特異的分解酵素を有していることを明らかにした。この予備知見に基づいて、本研究の初年度は「天然酵素としては初の例となるD-ペプチド分解酵素を同定し、その実体を明らかにすること」を目的として、網羅的破壊実験、及び候補遺伝子の異種発現実験を行った。 遺伝子破壊実験を主軸とした研究については難航したが、その一方で異種放線菌を宿主とした候補遺伝子の発現実験は大きな研究の進展を導いた。具体的には、候補遺伝子の一つを導入した異種放線菌が、非導入株には見られない顕著なD-ペプチド分解活性を獲得したことから、本研究で機能解明を目指す「D-ペプチド分解酵素の実体が、β-ラクタマーゼ様の新奇酵素である」ことを明らかにするに至った。この成果は2019年度日本生物工学会大会にてその成果を発表している。 当初計画より迅速に初年度計画を完遂出来たことから、次年度実施予定であった当該酵素のin vitro機能解析に向けた組換え酵素の構築にも取り組み、既に大腸菌を宿主とした発現系を用いて当該新規酵素を機能的な可溶性組換えタンパク質として獲得することにも成功している。2020年度に実施する当該新奇D-ペプチド分解酵素の機能解析を通してその酵素学的諸性質が明らかとなれば、各種非天然型生理活性D-ペプチドの酵素合成技術の確立にも道が切り開かれるものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
放線菌S. hindustanus ゲノムを精査し、候補と考えられる遺伝子の網羅的破壊実験、及び異種発現実験を通して未知なる長鎖D-ペプチド分解酵素遺伝子を同定することを初年度計画としていた。先例がない酵素故にその同定には相当な困難が予想されたが、合理的な候補遺伝子のin silico探索とその異種発現を用いた実験的検証を通してD-ペプチド分解酵素の実体がβ-ラクタマーゼ様の新奇酵素であることを突き止めた。また、2020年度計画の一部についても先行実施出来たことから「おおむね順調に進展している」と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
D-ペプチド分解酵素の実体がβ-ラクタマーゼ様の新奇酵素であることを明らかにしたが、その基質特異性など酵素学的性質の大部分は未解明なままである。そこで2020年度は同定したD-ペプチド分解酵素を組換え酵素として調製し、in vitro機能解析を通して基質特異性や反応速度論解析を含む当該酵素の酵素学的諸性質を明らかにする。基質特異性評価においては、ポリ-D-ジアミノブタン酸やε-PL等のイソペプチド構造の天然ポリアミノ酸基質だけでなく、各種化学合成D-アミノ酸含有ペプチド基質に対しても同様に評価を行う。 また、一次構造の類似性が高い酵素との構造機能相関の比較解析は、触媒残基や基質認識に関与するアミノ酸残基の推定、更には反応機構推定にも重要な知見を与えると期待できる。in silico比較解析によって選抜される推定機能性残基に部位特異的変異を導入し、変異酵素の機能解析を通して触媒残基及び基質認識に関与するアミノ酸残基を同定する。これにより基質アミノ酸残基立体認識機構に関する知見を得ると共に、その知見に基づいた基質特異性改変にも挑戦する。 一方、本研究の対象は新規酵素であるが故にin silico比較解析からは有益な情報が得られない可能性も考えられる。その場合は、網羅的にランダム変異を導入し、変異酵素発現株の各種合成塩基性(抗菌性)D-ペプチドに対する耐性を指標として、基質特異性が改変された変異型D-ペプチド分解酵素を選択的に取得する。また、一連の研究過程で作出する変異酵素の逆反応を利用した各種非天然型生理活性D-ペプチドの酵素合成への応用の可能性も探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画より迅速に計画を完遂出来たことにより、2020年度実施予定であった酵素のin vitro機能解析に向けた組換え酵素の構築を2019年度後半に先行実施するために、試薬類や実験器具の追加購入が必要となり、前倒し支払請求書を作成したが、事務担当者の手違いにより提出処理されていなかった。 そのため、研究計画は当初計画よりも進めることができたものの、残額が少なくなった時点で一部支払いを2020年度予算にまわさざるをえなくなった。従って残額は、2020年度予算と合算して試薬類や実験器具の購入に使用する計画である。
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