研究課題/領域番号 |
19K06553
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
芳賀 淑美 公益財団法人がん研究会, がんプレシジョン医療研究センター がんオーダーメイド医療開発プロジェクト, 研究員 (40525789)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 糖鎖 / 質量分析 / グライコプロテオミクス |
研究実績の概要 |
O-GlcNAc修飾は細胞内タンパク質の機能をダイナミックに調節することが知られている。特に癌ではO-GlcNAc化の昂進が高頻度に見られ、リン酸化と共に癌細胞の増殖、浸潤、転移などに関与するという報告もある。しかし、これまでO-GlcNAc修飾の変化を付加部位ごとに、高感度に、かつ網羅的に調べる技術は存在せず、O-GlcNAc修飾が持つ生理機能はごく限られた断片的な知見しか得られていない。そこで本研究では、微量の生体試料中のO-GlcNAc修飾部位を網羅的にプロファイル解析する技術の開発を目指している。 前年度までに、有機合成の手法を駆使し、新規O型糖タンパク質プロファイル法の核となるO型糖鎖付加サイトにのみプローブを挿入する反応、LC-MS測定における感度上昇の鍵となるプロトンアクセプターをペプチドに導入する反応の条件決定を行い、O型糖鎖修飾ペプチドの高効率濃縮法を確立した。本年度は、質量分析器に新規に導入されたイオンモビリティインターフェース(FAIMS)の測定条件最適化を行い、培養細胞抽出液中のO型糖鎖付加部位の同定数を最大化する条件を決定した。ペプチドの分画法の検討も合わせて最適化を行った結果、現在O型糖タンパク質としてデータベースに登録されている314タンパク質を大幅に上回る2540タンパク質、5677サイトを同定することができた。糖ペプチドの濃縮法と測定条件の最適化により、培養細胞抽出液や組織抽出液などのあらゆる生体サンプル中から網羅的に最高深度でO型糖鎖付加部位の同定を可能とする世界最高水準のグライコプロテオミクス技術の構築に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
イオンモビリティインターフェースのパラメータを通常のプロテオミクスに使用される範囲を超えて詳細に検討した結果、既報の8倍もの同定数を達成した。得られたグライコプロテオミクスデータを用いて局在解析、GO解析、パスウェイ解析を行い、がん関連タンパク質を含む多くの未報告O型糖鎖付加サイト同定など、想定以上の結果が得られた。また、通常の総タンパク質プロテオミクス解析の結果との比較により、同定されるタンパク質の細胞内分布に偏りがないことから本法がバイアスのかからない優れた方法であること、再現性も非常に高いことが確認された。リン酸化と競合するサイトも複数同定されており、細胞の増殖やがん化等機能への影響が期待されるため、今後も解析を継続する。技術基盤の確立が順調に進捗したことから、当初予定を繰り上げ、生体サンプルを用いた実験に向けて準備、検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
O型糖鎖修飾の一種であるO-GlcNAc化の昂進とO-GlcNAc転移酵素(OGT)の発現上昇は、乳がん、前立腺がん、肺がん、大腸がん、肝臓がん、白血病などすでに多くのがんで報告されている。しかし、いまだ限られた数のタンパク質でしかO型糖鎖付加は同定されておらず、どのタンパク質のどの部位にO型糖鎖付加が起こることによりがん細胞の増殖、生存、浸潤および転移を含む癌の分子病態に影響が及ぶのか、そのメカニズムの大部分は明らかになっていない。そこで次年度は大腸がん患者手術検体(正常部・癌部組織)を用いてO型糖タンパク質の網羅的解析を行い、がん特異的に増加するO型糖鎖付加部位の同定を行う。検体はがん研有明病院大腸外科の協力の元、すでに入手済みである。Paired t-testを行い、創薬ターゲットとなりうる膜タンパク質・酵素をリスト化する。候補タンパク質についてインタラクトーム解析やリン酸化との競合による機能への影響を調べるとともに、関連因子の探索を行う。
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