O-GlcNAc修飾は、細胞内タンパク質の機能をダイナミックに調節することが知られている。特にがんではO-GlcNAc化の昂進が高頻度に見られ、リン酸化と共にがん細胞の増殖、浸潤、転移などに関与するという報告もある。しかし、これまでO-GlcNAc修飾の変化を付加部位ごとに、高感度に、かつ網羅的に調べる技術は存在せず、O-GlcNAc修飾が持つ生理機能はごく限られた断片的な知見しか得られていない。そこで本研究では、微量の生体試料中のO-GlcNAc修飾部位を網羅的にプロファイル解析する技術の開発を目指している。 令和3年度は、大腸がん手術時採取組織(新鮮凍結組織)を用いての解析を実施した。手術検体20症例、同一患者の正常部・癌部組織計40サンプルから、強変性溶媒にてタンパク質の抽出を行った。まずは大腸がん患者組織から抽出されたタンパク質の網羅的定量プロテオーム解析を行った。およそ1万タンパク質が同定有意水準を満たして相対定量化された。これらに対して、上記2群間でPaired t-testを実施したところ、統計的に有意なタンパク質は826タンパク質であった。この中には、FDAが承認した創薬ターゲットであるDPEP1をはじめ、多くのがん特異的タンパク質が含まれていた。さらに、上記40サンプルに対して網羅的O型糖タンパク質プロファイル法を実施した。現在、得られたデータの解析を継続中であり、今後、新規なバイオマーカーやがん治療薬の標的となる分子の選定を行う。また、がんにおける糖鎖構造の変化と、それを高感度に検出するための新しい技術の進歩と糖鎖プロテオームの現状、そのがん領域への応用(がん診断、モニタリング、予後予測)についての総説論文をGlycoconjugate J.誌に発表した。
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