研究課題/領域番号 |
19K06556
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大野 祐介 北海道大学, 薬学研究院, 助教 (50611498)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | トリグリセリド / アシルセラミド / 皮膚バリア / セラミド / リパーゼ / ドルフマン・シャナリン症候群 / 魚鱗癬 |
研究実績の概要 |
ABHD5はトリグリセリド(TG)分解酵素PNPLA2の活性化因子であり, ABHD5遺伝子は魚鱗癬症候群(ドルフマン・シャナリン症候群)の原因遺伝子として知られている。ABHD5遺伝子変異により皮膚疾患,肝肥大,神経障害が引き起こされる一方で,PNPLA2の機能不全による影響は筋組織に限局していることからABHD5はPNPLA2以外のTG分解酵素の活性化にも関与することが推察される。本研究では,PNPLAファミリータンパク質(PNPLA1-9)に着目し, PNPLAファミリータンパク質の活性化へのABHD5の関与および皮膚,肝臓,神経系におけるTG代謝の制御機構を明らかにすることを目的としている。 本課題申請中にABHD5がPNPLA1によるω水酸化セラミドへのトランスアシレーション反応(TGのリノール酸鎖の転移)を促進し,その反応産物であり皮膚バリア脂質であるアシルセラミド合成に寄与することを報告した。本論文では,Proximity ligation assay (PLA) 法によりPNPLA1とABHD5が相互作用することも併せて明らかにした。令和元年度は,この相互作用解析法をPNPLA1以外のPNPLAファミリーにも応用するため,まずその他のPNPLAファミリーをクローニングし,PLA法によりABHD5とPNPLA3が相互作用することを新たに見出した。また,PNPLA3とABHD5をHEK 293T細胞に共過剰発現させると,TG代謝が変化することを見出した。 三次元培養ケラチノサイトを用いた経上皮電気抵抗測定による皮膚バリアアッセイ系を構築した。ABHD5遺伝子ノックアウト(KO)不死化ケラチノサイトを作製し,バリアアッセイを行ったところ ABHD5 KOケラチノサイトではバリア機能が低下していることが確認され,ドルフマン・シャナリン症候群モデル細胞の構築に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は,すべてのPNPLAファミリーのクローニングし,ABHD5とPNPLA3が相互作用すること,およびABHD5がPNPLA3によるTG代謝へ関与することを見出した。しかし,PNPLA3によるTG分解にABHD5が関与することを明らかにした報告を海外のグループにより先行されてしまった。一方,申請書の計画には加えていなかったin vitroにおける皮膚バリア機能の評価系の確立に成功し,この評価系によりABHD5 KOケラチノサイトがドルフマン・シャナリン症候群モデル細胞として有用であることを証明した。この実験系は,ドルフマン・シャナリン症候群におけるTG代謝異常と病態発症機構の解明および治療法確立のための高次評価系として有用なツールとなると期待できる。これらのことから総合的に判断し,当該年度はおおむね順調に進んでいると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
ABHD5 による PNPLAタンパク質の活性化の分子メカニズムを明らかにするため,プロテオリポソームを用いたin vitro における活性解析,細胞を用いた解析を行なう。申請者が構築した無細胞翻訳系によるPNPLA1のプロテオリポソームを用いたTGのトランスアシレーション活性(アシルセラミド合成)に対するABHD5の影響を調べる。ABHD5によるPNPLA1の活性化機構の細胞レベルの解析には,ケラチノサイトを用いた解析を行う。アシルセラミド合成はケラチノサイトの分化に伴って活性化するため,ケラチノサイト分化過程におけるTG分子種特異的な代謝変動を,重水素標識脂肪酸を用いたトレーサー実験および質量分析解析により調べる。 ABHD5変異による神経障害の発症メカニズムが,ABHD5によるPNPLA6またはPNPLA7の活性化の低下に起因する可能性を調べるため,ABHD5,PNPLA6またはPNPLA7を欠損させた神経細胞を作製し,TGをはじめとするリピドミクス解析および遺伝子発現解析,シグナル伝達解析を行なう。
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