ABHD5はトリグリセリド(TG)分解酵素PNPLA2の活性化に必須であり,ABHD5遺伝子は魚鱗癬症候群(ドルフマン・シャナリン症候群)の原因遺伝子として知られている。ドルフマン・シャナリン症候群では皮膚疾患,肝肥大,神経障害が引き起こされる一方で,PNPLA2の機能不全による影響は筋組織に限局していることから,ABHD5はPNPLA2以外のTG分解酵素の活性化にも関与することが推察される。本研究では,PNPLA2を含めた他のPNPLAファミリータンパク質(PNPLA1-9)の活性化へのABHD5の関与を明らかにすること,および皮膚,肝臓,神経系におけるTG代謝の制御機構を明らかにすることを目的としている。 これまでにABHD5がPNPLA1によるTGのトランスアシレーション反応(皮膚バリア脂質アシルセラミドを産生)を促進すること,ABHD5がPNPLA1と相互作用することでPNPLA1を脂肪滴(TGが存在)へ移行させることを見出していた。令和3年度は,16種のPNPLA1魚鱗癬ミスセンス変異体のうち15種はアシルセラミド合成活性を持たないことを見出した。ABHD5はこの15種のPNPLA1変異体のうち,13種の変異体を脂肪滴に移行させないことも明らかにし,このことからABHD5はこれらの変異体とは相互作用できないことが示唆された。ABHD5とPNPLA1をHeLa細胞に発現させ,脂肪滴形成を誘導すると,両タンパク質を高発現した細胞では脂肪滴が消失することをこれまでに明らかにしていたが,活性を持たないPNPLA1の変異体は脂肪滴を消失させないことを新たに見出した。このことはPNPLA1の活性およびABHD5による活性の増強が脂肪滴の消失に寄与しており,この実験系がABHD5またはPNPLA1変異と病態との相関性を予測または解明するツールとして有用であることを示している。
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