細胞膜の脂質二重層では、その内外層で脂質分子の組成に大きな偏りがある。その様な「脂質非対称」は真核生物に共通の性質であり、細胞の生存に必須である。本研究の目的は、真核生物のモデル生物である出芽酵母を用いて、細胞膜の脂質費非対称性の状態が脂質非対称センサータンパク質Rim21によってどの様にモニターされ、その変化がどの様にシグナル伝達タンパク質群に出力されるのかを明らかにすることである。 昨年度は、Rim21のセンサーモチーフを含む領域と膜脂質との相互作用を調べ、膜との相互作用において重要なアミノ酸残基の解析、その部位への変異導入、それらのタンデム連結などを行い、新たな知見を得ていた。また、それらの知見を元に細胞膜の脂質非対称性が細胞外のpH、塩濃度、浸透圧などの物理化学変数によって変化し、その脂質非対称変化を通してRim21に感知される可能性を示した。 本年度はこの発見を掘り下げた。Rim21は以前より細胞外のpH上昇や高塩濃度に対する適応に必須であることが知られている。これらの細胞外ストレスが脂質非対称の変化を通して感知される、という仮説を立てた。一方、脂質非対称の変化を起こす可能性が示された高浸透圧ストレスに対する適応には、Rim21は必要では無いことを明らかにした。このことから、様々な細胞が物理化学ストレスが細胞膜脂質非対称の状態変化をもたらし、そのうちの一部がRim21によって感知されて適応反応が惹起される様である。高浸透圧ストレスは、脂質非対称変化以外にも細胞膜に何らかの状態変化をもたらし、その変化がRim21以外のタンパク質によって感知されていると予想された。 この他にも、Rim21が下流因子にシグナルを出力する際に重要だと思われるモチーフを明らかにすることが出来た。
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