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2019 年度 実施状況報告書

紅色光合成細菌による近赤外光電変換メカニズムの解明

研究課題

研究課題/領域番号 19K06563
研究機関神戸大学

研究代表者

木村 行宏  神戸大学, 農学研究科, 准教授 (20321755)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワード光合成 / 近赤外光 / 光電変換 / 紅色細菌 / uphillエネルギー移動
研究実績の概要

地上に降り注ぐ太陽光の約4割は近赤外光であり、未利用のエネルギー資源である。原始の光合成生物である紅色光合成細菌は、低エネルギーの近赤外光を光電変換する光捕集・電荷分離システム(光捕集1反応中心複合体:LH1-RC)を備えており、①低いエネルギーを高いエネルギーに変換するuphill型エネルギー移動および②効率的なキノン輸送型の電子伝達機構により近赤外光をエネルギー源とした光-物質変換を営んでいるが、両者の詳細な分子機構は不明である。
本研究では、より低いエネルギーを吸収し、より高いuphillエネルギー勾配を遡る紅色光合成細菌由来LH1-RCについて、色素間、色素ータンパク質間の特異的な相互作用を紫外可視、赤外、ラマン分光学法を用いて詳細に解析することにより、①を検証する。また、LH1-RC複合体構造の異なる紅色光合成細菌におけるキノン輸送を赤外分光法を用いてモニタリングし、各種同位体置換やキノン置換の効果を調べることにより、②を検証する。①および②から得られた知見を元に、紅色光合成細菌における近赤外光電変換の分子メカニズムを解明することを目的としている。
今年度は上記①について研究を進め、(1)対象とする紅色細菌がカルシウムイオンを利用した巧みな分子配向制御により、効率的に近赤外光を吸収していること、(2)uphillエネルギー移動の速度は遅いが、光や熱による失活を伴わずに効率的なエネルギー移動を実現していることを明らかにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

今年度は、低いエネルギーを高いエネルギーに変換するuphill型エネルギー移動について研究を進めた。バクテリオクロロフィルaを有する紅色細菌の中で最も低いエネルギーを利用するThiorhodovibrio strain 970の光捕集1タンパク質複合体がカルシウムを結合タンパク質であり、トリプトファンを介してバクテリオクロロフィルの配向状態を制御することにより、エネルギーの低い近赤外光を吸収可能にしていることを明らかにした。これらの結果をまとめ、Biochemistry誌に報告した。
一方、超高速分光による解析により、uphillエネルギー移動の速度はエネルギーギャップに比例して遅いにも関わらず、発光や無輻射失活によるエネルギー損失が極めて低く、効率的なuphillエネルギー移動が行われていることを明らかにした。また、反応中心複合体の電荷分離に伴う配向変化を光誘起赤外分光法により観測するシステムを構築し、Thiorhodovibrio strain 970のRCにおける特異的な吸収特性の一旦を明らかにした。現在、これらの結果をまとめ、投稿論文を執筆中である。

今後の研究の推進方策

今後はThiorhodovibrio strain 970由来光捕集1反応中心複合体における効率的なキノン輸送機構について明らかにしていく。紅色細菌におけるキノン輸送機構については、実験的に証明されておらず、種によって分子機構が異なる可能性がある。キノン輸送機構を明らかにするには、ネイティブな分子環境でキノンの挙動をモニターする必要があることから、光合成膜を用いた測定系を確立する必要があり。また、再構成膜の調製方法を確立することにより、キノンを外来のキノンで置き換えたり、同位体などでラベリングすることが可能である。これらの手法と光誘起赤外分光測定を組み合わせることにより、キノンのモニタリングが可能になると期待される。
これまでに報告されている紅色細菌の構造情報と光誘起赤外分光法により得られるキノンーキノール変換に伴う変化を詳細に解析することにより、キノン輸送機構の解明に重要な知見が期待される。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2019 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)

  • [国際共同研究] Southern Illinois Univ(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      Southern Illinois Univ
  • [国際共同研究] Braunschweig Univ Technol(ドイツ)

    • 国名
      ドイツ
    • 外国機関名
      Braunschweig Univ Technol
  • [雑誌論文] A dual role for Ca2+ in expanding the spectral diversity and stability of LH1-RC photocomplexes of purple phototrophic bacteria2019

    • 著者名/発表者名
      Imanishi, M., Takenouchi, M., Takaichi, S., Nakagawa, S., Saga, Y., Takenaka, S., Madigan, M.T., vermann, J., Wang-Otomo, Z.-Y., and Kimura Y.
    • 雑誌名

      Biochemistry

      巻: 58 ページ: 2844-2852

    • DOI

      10.1021/acs.biochem.9b00351

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] Spectroscopic characterization of a bacteriochlorophyll b-based LH1-RC complexes from thermophilic purple bacterium Blastochloris tepida2019

    • 著者名/発表者名
      Kimura, Y., Seto, R., Kishi, R., Imanishi, M., Takaichi, S., Takenaka, S., Madigan, M.T., and Wang-Otomo, Z.-Y.
    • 学会等名
      The 57th Annual Meeting of the BSJ
  • [学会発表] A dual role for calcium in expanding the spectral diversity and stability of LH1-RC photocomplexes of purple phototrophic bacteria2019

    • 著者名/発表者名
      Imanishi, M., Takenouchi, M., Takaichi, S., Nakagawa, S., Saga, Y., Takenaka, S., Madigan, M.T., Overmann, J., Wang-Otomo, Z.-Y., and Kimura, Y.
    • 学会等名
      The 57th Annual Meeting of the BSJ
  • [学会発表] バクテリオクロロフィルbを有する好熱性紅色細菌Blastochloris tepidaの耐熱性獲得機構2019

    • 著者名/発表者名
      瀬戸隆太、川上知朗、岸利華子、今西三千絵、高市真一、竹中慎治、M.T. Madigan、大友征宇、木村行宏
    • 学会等名
      日本農芸化学会 関西・中部支部2019合同神戸大会
  • [学会発表] 紅色光合成細菌由来光捕集1反応中心複合体のスペクトル多様性と構造安定性におけるカルシウムイオンの役割2019

    • 著者名/発表者名
      今西三千絵、竹之内瑞貴、高市真一、中川支央里、佐賀佳央、竹中慎治、M.T. Madigan、大友征宇、木村行宏
    • 学会等名
      第27回光合成セミナー:反応中心と色素系の多様性
  • [学会発表] 新規好熱性紅色細菌Blastochloris tepida由来LH1-RCの耐熱化機構と低エネルギー吸収特性の要因2019

    • 著者名/発表者名
      瀬戸隆太、川上知朗、岸利華子、今西三千絵、高市真一、竹中慎治、M.T. Madigan、大友征宇、木村行宏
    • 学会等名
      第27回光合成セミナー:反応中心と色素系の多様性
  • [備考]

    • URL

      http://www.edu.kobe-u.ac.jp/ans-bpc/

URL: 

公開日: 2021-01-27  

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