研究課題/領域番号 |
19K06564
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
両角 佑一 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (80571439)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 分裂酵母 / target of rapamycin |
研究実績の概要 |
本研究では、分裂酵母をモデルとしてmTORキナーゼが形成する複合体mTORC1がどのようにしてその基質を認識、リン酸化するのか検討した。哺乳類において、mTORC1の基質であるS6K1はそのN末端領域のTOSモチーフを介してmTORC1構成因子であるRAPTORと相互作用することでリン酸化される。昨年度、分裂酵母mTORC1の基質であるPsk1(哺乳類S6K1相同因子)が、そのN末端領域のTOS様モチーフを介してmTORC1構成因子であるMip1(哺乳類RAPTOR相同因子)と相互作用すること、およびその相互作用がmTORC1によるリン酸化に必須なことを見出している。本年度は、Psk1のTOS様モチーフとの相互作用に重要なMip1の領域の同定を目指した。RAPTORのTOSモチーフとの相互作用に重要なアミノ酸残基は報告されており、それらの残基はMip1にも保存されていた。そこで、その保存されたMip1のアミノ酸残基をアラニンに置換したMip1変異体(Mip1-Y533A)を発現する分裂酵母株を作製し、その表現型を解析した。その結果、mip1変異株でPsk1のリン酸化レベルが著しく低下していることが明らかになった。また、実際にMip1点変異体とPsk1の相互作用も損なわれていることがわかった。また、mip1変異株において他のTORC1の基質(Sck1,Sck2, Maf1, Atg13)のリン酸化レベルを調べた結果、Atg13のリン酸化レベルが低下していた。このことから、Psk1に加えて、Atg13もTOSモチーフを介してmTORC1にリン酸化されることが示唆された。 昨年度、Maf1のリン酸化部位の同定に成功したため、本年度はMaf1のリン酸化がその機能に及ぼす影響を調べた。出芽酵母においてMaf1のリン酸化は、Maf1の細胞内局在の制御に重要なことが報告されている。そこでMaf1のリン酸化部位にアラニン置換を導入したMaf1変異体の細胞内局在を調べた。その結果、Maf1変異体の局在は野生型と同様だったことから、Maf1の局在はリン酸化によって制御されていないことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Mip1変異体を用いた解析によって、TOSモチーフを介したmOTRC1の基質認識機構が哺乳類だけでなく、分裂酵母においても保存されていることを見出せた。また、Psk1に加えてAtg13がTOSモチーフを介してTORCにリン酸化されていることを示す結果も得られた。さらには、Maf1のmTORC1によるリン酸化がMaf1の機能に及ぼす影響の解析も、計画通り進捗しているためおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
分裂酵母においてAtg13がTOSモチーフを介して、mTORC1によってリン酸化されることが示唆された。そこで、分裂酵母のAtg13のどの領域がmTORC1によるリン酸化に重要なのかを検討する。具体的には、Atg13のアミノ酸配列にはTOSモチーフに似た配列がいくつか存在するため、それらの配列にアラニン置換を導入したAtg13変異体を発現する株を新たに構築し、そのリン酸化レベルを調べることでTOSモチーフとして機能する配列の特定を目指す。 また、Maf1に関してもmTOC1によるリン酸化が及ぼす影響を引き続き調べていく予定である。Maf1はRNAポリメラーゼIIIの抑制因子として機能するが、Maf1のリン酸化がRNAポリメラーゼIIIとの相互作用に影響を及ぼす可能性があるため、Maf1変異体とRANポリメラーゼIIIとの相互作用を検証する。また、maf1変異株におけるRNAポリメラーゼIIIによるtRNAおよび5S rRNAの転写レベルなどを調べることで、リン酸化がMaf1の機能に及ぼす影響を調べる。 また、Sck1のリン酸化部位は昨年度に特定することに成功しているが、sck1遺伝子欠損や、リン酸化部位をアラニンに置換にしたSck1変異体を発現する分裂酵母株の熱ストレス耐性が亢進することを見出している。今後、このSck1の関係する熱ストレス耐性の制御に関しても研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、コロナ禍を受けた緊急事態宣言などによって、当初の計画通り実施できない研究があり消耗品費など支出が予定より低く抑えられた。2020年度に実施できなかった研究は2021年度に遂行するが、次年度使用額分はその研究遂行に必要な消耗品費として全て使用する予定である。
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