本研究では、分裂酵母をモデル生物としてmTOR(mechanistic Target Of Rapamycin)が形成するキナーゼ複合体mTORC1がどのようにしてその基質を認識、リン酸化するのかを明らかにすることを目的とした。哺乳類においていくつかのmTORC1基質は、基質に含まれるTOSモチーフと呼ばれる5アミノ酸程度の短い配列を介して、mTORC1構成因子であるRAPTORと相互作用することでリン酸化されることが明らかになっている。本研究ではこれまでに、分裂酵母Psk1がTOSモチーフを介してmTORC1と相互作用し、リン酸化されることを見出し、TOSモチーフを介したmTORC1の基質認識機構が分裂酵母においても保存されていることを明らかにした。また、mTORC1の制御サブユニットの一つであるMip1(ヒトRAPTOR相同因子)の特に533番目のチロシン残基が、TOSモチーフとの相互作用に重要であることを明らかにし、その残基をアラニンに置換したMip-Y533A変異体はTOSモチーフ依存的にリン酸化されるmTORC1の基質探索に有用なツールになり得ることを示してきた。mip1-Y533A変異酵母株はmTORC1阻害剤であるラパマイシンに感受性を示すが、この変異株をラパマイシン含有培地で培養すると、ラパマイシン抵抗性を獲得した復帰突然変異体が単離できることを見出した。この復帰突然変異体は、mTORC1の制御因子や基質の変異によってラパマイシン抵抗性を獲得したことが予想される。そこで最終年度は、これらの復帰突然変異体に含まれる変異を全ゲノム解析することで原因遺伝子を特定し、mTORC1経路で機能する候補因子をいくつか同定することに成功した。
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