研究課題
ペルオキシソーム膜透過輸送装置の主要な構成因子であるPex14pはペルオキシソーム移行シグナルタイプ1の受容体であるPex5pとマトリクスタンパク質の複合体がドッキングする場である。その後Pex5p-マトリクスタンパク質複合体は膜透過装置の働きでペルオキシソーム内腔側へと輸送されるが、その輸送と制御メカニズムの詳細は未だ明らかにされていない。そこで2020年度の本研究では、Pex14pが細胞周期の中でも特に分裂期において特異的にリン酸化され、そのリン酸化によってPex5pの細胞質へのリサイクリング機構が抑制されることを見出した。この抑制的な制御機構によって、ペルオキシソームマトリックスタンパク質の中でも特にカタラーゼの輸送が阻害されることを明らかにし、細胞質画分へ重点的に配置されたカタラーゼが分裂期における酸化ストレスから細胞内環境を保護するという新たなメカニズムを提案した (J. Cell Biol. 219 (2020): e202001003)。また、ペルオキシソーム代謝異常が中枢神経系に与える影響について、マウス個体レベルでの解析を行った。ペルオキシソーム形成因子のひとつであるPEX2遺伝子を薬剤依存的にノックアウトするコンディショナルノックアウトマウスを作成し、5週齢のマウスにタモキシフェンを投与することでPEX2遺伝子を欠失させた。これらのマウスに対して恐怖条件付け記憶に対する影響を解析したところ、ペルオキシソーム代謝能を低下させたマウスでは1週間後の記憶保持能力の低下が認められた。この結果は成体マウスにおいてもペルオキシソーム代謝能の低下が中枢神経系に顕著な影響を及ぼすことを示唆している (Front. Cell Dev. Biol. 8 (2020): article 567017)。
2: おおむね順調に進展している
長年にわたりその役割が不明であったPex14pのリン酸化修飾について、そのリン酸化部位を明らかにするとともにその機能的な意義を生化学的な解析から明らかにした。2019年度にその研究成果をJournal of Cell Biologyへ投稿し、2020年度では査読に対して改訂を行うことで研究成果を発表、そして世界に向けて発信することができた。また、ペルオキシソーム代謝とその恒常性の意義や重要性について、発生の初期段階だけでなくマウス個体レベルでの解析へと発展させることで研究成果を発表することができ、計画通りに課題研究を進めることができている。
2021年度はこれまでに得られた研究成果をさらに発展させるために、Pex14pのリン酸化または脱リン酸化によりペルオキシソーム機能を制御することの生理的な意義を分子レベルで解明することを目指す。その際、ペルオキシソームへのカタラーゼ輸送を抑制または促進する機構だけでなく、積極的にペルオキシソーム外へ排出するメカニズムについてもBAKタンパク質に注目しながら解析を進める。また、Pex14pは飢餓条件下では積極的に脱リン酸化されることを最近見出しており、酸化ストレスに対する抵抗性の維持と制御について、Pex14pのリン酸化または脱リン酸化の切り口から研究を発展させる予定である。さらに、2020年度はマウス個体レベルの解析からペルオキシソーム代謝能と記憶との相関について解析を進めたが、今後は、その障害メカニズムを分子レベルで明らかにすることを目指す。つまり、神経細胞レベルでの実験系を構築することで、ペルオキシソーム代謝の破綻がもたらす神経細胞への影響を詳細に解析することでさらに発展させるべく研究を進める。
すべて 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
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