研究課題/領域番号 |
19K06568
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
松永 隼人 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 助教 (20437833)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | シナプス / 膜タンパク質 / GPCR / 代謝型グルタミン酸受容体 |
研究実績の概要 |
本研究は、神経膜タンパク質Elfn familyと7回膜貫通型受容体(GPCR)のClass Cに分類される代謝型グルタミン酸受容体(mGluR) familyの神経細胞での相互関係を明らかにすることを目的とする。 1.ElfnsとmGluRsの相互作用:組み換えタンパク質によるPull-Down assayと生体脳膜画分を用いた免疫沈降法、並びに細胞レベルの再構成実験により、Elfn1とElfn2間における相互作用mGluR種の相同・相違点を明らかとした。 2.Elfns欠損とElfn1ミスセンス変異におけるmGluRsの脳局在の変調解析:Elfnsの単独KOとてんかんやADHD患者で認められたElfn1ミスセンス変異KIマウスの脳部位におけるmGluRsの発現量変調解析から、脳部位に特異的な変調とそれらの変調には性差があることを見出した。この変調は、mGluRsと同じくClass C GPCRに分類されるカルシウム感受性受容体(CasR)でも確認された。さらに、野生型とKOマウスの比較解析から、Elfn2の欠損によりmGluRsがプレシナプス側の輸送小胞に多く存在する局在変調も明らかとした。 3.新たなElfn制御膜タンパク質の提示:先述のように、CasRがElfnsによって発現が制御される可能性が示された。免疫組織化学解析から、細胞表面に存在するCasRの局在量は脳部位特異的に変調していることも確認している。生体内において、CasRがElfnとの直接的な相互作用、または間接的な作用によってに制御されているか興味深い。本結果は、ElfnがmGluRsだけでなくClass C GPCRの制御分子であることを想起させる。 次年度以降は、「Elfnが、シナプスにおけるmGluR存在量とプレ/ポストシナプス両方向性の受容体活性を制御するバランサーである」との仮説を検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)Elfns欠損におけるmGluRsの脳局在については、タンパク質発現解析は終了しており、免疫組織化学によるシナプス膜局在の詳細な画像解析を行う段階にある。 (2)Elfnが直接結合するmGluRの特定は、組み換えタンパク質によるPull-Down assayと生体脳膜画分を用いた免疫沈降法にて明らかとした。Pull-Down assayの結果から、バイオセンサーを用いた動力学的解析は生体内相互作用のモデルを必ずしも反映しないと判断し、本研究では行わない。 (3)ElfnsによるGPCRシグナリング制御機構解明は、assay系を確立中である。 (4)ElfnsのKOマウス、Elfn1ミスセンス変異マウスのClass C GPCRの脳局在解析から、脳部位の発現変調に性差があることを見出した。 (問題点)予定していたElfn1/2二重KOマウスは、胎生致死の可能性があり、現在のところ樹立するには至っていない。引き続き、検討する。
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今後の研究の推進方策 |
ElfnsによるClass C GPCRの発現・局在・活性バランスの制御について解明する。独自に開発したElfn family遺伝子の単独欠損マウス、複合欠損マウス(樹立可能か検討中)、発達障害患者で認められたミスセンス変異導入マウスを利用してmGluRsの局在変調の脳地図を作製し、バイオイメージング解析によりElfnによるmGluRsのシグナル制御機構を解明する。特に、Elfn2の機能解明に注力し、シナプスにおけるmGluR存在量とプレ/ポストシナプス両方向性の受容体活性を制御するバランサーであるとの仮説を検証する。更に、野生型または変異型Elfnによる機能レスキュー実験をElfn遺伝子改変マウス、および、その由来細胞で行うことで仮説を検証する。ヒト遺伝学解析から、ELFN1はてんかんやADHDに関連しており、GRM1-8(mGluR1-8)は、神経発達障害、不安障害、気分障害、統合失調症に関連することが知られている。動物行動解析からElfn2 KOマウスも神経発達障害様の表現型を有していることを明らかとしている。本研究は、これらの疾患の病態理解、治療薬の開発に大きく貢献する。
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