本研究は、神経膜タンパク質Elfn familyと7回膜貫通型受容体(GPCR)のClass Cに分類される代謝型グルタミン酸(mGluR)familyの神経細胞での相互関係を明らかにすることを目的とし、以下の点が明らかとなった。 1.Elfn1、並びにElfn2は、それぞれ特異的なmGluRの局在を制御し、その制御には性差が存在する。2.Elfn1ミスセンス変異によるElfn1のリン酸化と膜動態変化。てんかんやADHD患者で認められたElfn1ミスセンス変異は、Elfn1に存在する複数のチロシンリン酸化部位に近接している。このリン酸化部位は、2種類の受容体型キナーゼの標的となっており、Elfn1の内在化を誘導する。種々のミスセンス変異体やリン酸化部位変異体は、野生型と異なるendosome局在を示したことから、Elfn1の細胞膜への再利用や分解という運命決定に関与すると考えられる。3.Elfn2 KOマウスが示す学習障害とmGluRポジティブアロステリックモジュレーター(PAM)応答。恐怖条件づけ記憶・学習試験において、Elfn2は、雌雄ともに記憶の獲得能力が野生型と比較して低いことが明らかとなった。加えてElfn2欠損により局在異常を示すmGluRのPAM投与による記憶・学習能の比較を行うと、野生型マウス投与では大きな影響を与えないが、Elfn2 KOマウスでは恐怖学習の想起の低下が観察された。このことは、Elfn2欠損によって発現量と局在が変化したmGluRの活動が野生型と異なることを個体レベルで示したものである。 今後は、「Elfnが、シナプスにおけるmGluRの受容体局在・活性を制御するバランサーである」との仮説を分子・細胞レベルでGPCR活性を指標に検証し、Elfn1ミスセンス変異KIマウス解析によるてんかん、ADHDの発症機構の解明と治療に資する研究を行う。
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