研究課題/領域番号 |
19K06571
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
十島 二朗 東京理科大学, 基礎工学部生物工学科, 教授 (00333831)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | GPCR / エンドサイトーシス / リサイクリング |
研究実績の概要 |
エンドサイトーシスは細胞外の物質を細胞内へと取り込む機構であり、栄養物質の摂取、免疫応答機構などの基本的生命現象に関わっているほか、細胞の癌化や病原ウィルスの感染等、ヒトの病気とも深く関わっている。また、エンドサイトーシスは、リガンドとの結合により活性化された細胞膜上受容体を不活性化する過程においても重要な役割を果たしている。この過程において、活性化した受容体はまずエンドサイトーシスにより細胞内に取込まれ、初期エンドソームへと輸送される。初期エンドソームに輸送された受容体はリガンドと解離し、リサイクリング経路により細胞膜へと戻される。一方、受容体から解離したリガンド、および受容体の一部は、後期エンドソームを経てリソソームへと輸送され、分解される。このエンドサイトーシスによる受容体の分解・リサイクリング機構は、出芽酵母から哺乳類細胞に至る全ての真核細胞で広く保存されており、様々な細胞外シグナルの活性制御において重要な役割を果たしている。本研究の目的は、Gタンパク質共役型受容体をはじめとする受容体のエンドサイトーシスによる受容体の分解・リサイクリングの分子機構を明らかにすることである。 これらの目的について、本年度、(研究課題①)GPCRがクラスリン小胞に取り込まれる分子機構の解明、(課題②)GPCRのクラスリン小胞から初期エンドソームへの輸送機構の解明、(課題③)GPCRの初期エンドソームでのリサイクリング機構の解明、および(課題④)GPCRの初期-後期エンドソームへ輸送におけるRabタンパクの機能解析、の4つの研究課題について研究を実施した。これまでの研究において、これら4つのプロジェクトはほぼ通りに進行している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度研究計画に沿って以下の研究を実施した。まず、「課題①GPCRがクラスリン小胞に取り込まれる分子機構の解明」については、細胞膜成分の1つであるPI(4)Pが重要な役割を果たしていることを明らかにした。今回、私は細胞表面のPI(4)Pとその結合因子の動態について、全反射照明蛍光顕微鏡(TIRF)により解析し、PI(4)Pの細胞膜上での挙動を明らかにした。また、以前のスクリーニングで得られた、GPCRの細胞内への取り込みに異常の見られる変異体について、放射標識したリガンドを用いて、取り込み異常がどの程度見られるかについて定量化することに成功した。「課題②GPCRのクラスリン小胞から初期エンドソームへの輸送機構の解明」については、エンドサイトーシス小胞と初期エンドソーム間の融合に重要な働きをしているアクチン細胞骨格について、哺乳類Eps15ホモログであるPan1pをプローブとしたラパマイシン誘導性二量体化法を用いて、クラスリン小胞とアクチンの結合を仲介する分子の同定を試みた。この結果、Pan1pに加えて新たに2つの分子が鍵因子としてはたらいていることを見出した。「課題③GPCRの初期エンドソームでのリサイクリング機構の解明」については、低分子量Gタンパク質Rab6の温度感受性変異体を作成し、この変異体においてGPCRのリサイクリング異常が起こることを見出した。「課題④GPCRの初期-後期エンドソームへ輸送におけるRabタンパクの機能解析」については、GPCRの初期-後期エンドソーム間輸送に関わるRab5 GTPaseについて、その特異的GEFタンパク質であるVps9pが一過程にゴルジ体にPI(4)P依存的に局在することを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度得られた成果を基に、今後は次の研究を推進する。 課題①については、これまでにGPCRの細胞内への取り込みに特に大きな異常を示すことを明らかにした変異体について、その細胞膜上でのPI(4)Pの発現量や動態について調べる。また、PI(4)Pのキナーゼおよびホスファターゼのこれらの変異体における局在についても明らかにする。さらに、小胞体膜と細胞膜間の相互作用の異常が、GPCRの取り込みにあたえる影響について解析する。課題②については、本年度に引き続きラパマイシン誘導性二量体化法を用いて、クラスリン小胞とアクチンの結合の分子機構を調べる。特に、本年度新たに同定した二つの分子について、それぞれをプローブとして用いた際に、これらの分子とF-アクチンとの相互作用、およびこれらの分子に直接結合する分子を同定する。課題③については、本年度単離したRab6の温度感受性変異体について、さらに詳細に解析し、これらの変異体においてGPCRのリサイクリング異常がどのような原因により起こっているのかについて調べる。また、ゴルジ体における輸送異常が膜タンパク質のリサイクリングに影響を与えることから、ゴルジ体の成熟のリサイクリングへの関与についても研究を進める。課題④については、Rab5の活性や局在に影響を与えるエンドサイトーシス変異体のスクリーニングを行う。これまで、既に私達はエンドサイトーシス異常を示す約200種の変異体の同定に成功している。今後は、これらのエンドサイトーシス変異体の中でRab5の局在が異常になるものを調べ、GPCRの初期から後期エンドソームへの輸送に必要な新しい制御因子の同定を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費が7万7千円程度残りましたが、これは購入する必要のあるものが8万円を超えるものであり、残予算額で購入できなかったためです。このため、残額については翌年度の物品費と合わせて使用する予定です。
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