DOCKタンパク質は、低分子量Gタンパク質Rac/Cdc42のグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)であり、これらのGタンパク質の活性化を介して、細胞運動やがん転移を促進する。ELMOタンパク質はDOCKと結合し、細胞内でDOCKによるRacの活性化の制御に必須な役割を担っている。本研究は、ELMOを中心としたタンパク質複合体の立体構造を解析することで、ELMO-DOCK-Racシグナル伝達機構の解明とその制御を目的としている。 昨年度までに、ELMO1-DOCK5-Rac1三者複合体のクライオ電子顕微鏡解析のための試料調製法を確立し、その立体構造を決定した。この三者複合体構造に基づき、ELMO1変異体を用いた生化学実験から、ELMO1のC末端領域がRac1とDOCK5の結合を安定化させ、DOCK5によるRac1の活性化を促進することを明らかにした。一方、ELMO1のN末端領域は一定のコンフォメーションをとらないことが確認された。 本年度は、ELMO1のN末端領域の役割を明らかにするため、さまざまな活性化状態におけるELMO1-DOCK5複合体の構造を解析した。まず、不活性化状態を表すELMO1-DOCK5二者複合体のクライオ電顕構造を決定した。次に、シグナル上流因子であるGタンパク質RhoGを用いて、活性化状態を表すRhoG-ELMO1-DOCK5-Rac1四者複合体のクライオ電顕構造を決定することに成功した。この四者複合体の構造決定には、初年度に決定した活性型RhoGとELMO1のN末端領域との複合体の結晶構造を活用した。この2つの状態の構造を比較した結果、ELMO1のN末端領域はDOCK5の活性化に伴って大きな構造変化を起こし、それによって活性を制御していることが明らかになった。
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