研究課題/領域番号 |
19K06577
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小井川 浩之 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (40536778)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | タンパク質 / 液-液相分離 / 一分子蛍光測定 / FRET |
研究実績の概要 |
タンパク質や核酸を含む溶液は条件を整えると液-液相分離し、濃い相は液滴となって分散する。本研究は、液-液相分離を起こすモデルタンパク質であるLAF1-RGGドメインを蛍光色素で二重標識し、独自開発した装置で液滴中の分子の運動を一分子蛍光分光を行い、液滴形成のメカニズムや、液滴中のタンパク質の構造状態、タンパク質と核酸の相互作用を分子レベルで理解することを目的としている。 2019年度は、初めに、先行研究に倣ってLAF1-RGGドメインを発現精製した。このRGGドメインは二重蛍光標識のために、C末端システイン残基を導入している。このRGGドメインのN末端アミンとシステインのチオール基にそれぞれ蛍光共鳴励起エネルギー移動(FRET)のドナーとアクセプターとなる蛍光色素をラベル、精製し、測定用の試料を得た。この試料を用いてRGGドメイン希薄溶液の一分子FRET測定を様々な塩濃度、変性剤濃度条件で行った。この測定には、独自の高時間分解能一分子FRET測定装置を用いた。FRET効率は顕著な塩濃度依存性を示さず、どの塩濃度条件でも比較的大きなFRET効率を示した。また、変性剤である尿素が濃い条件ではFRET効率が小さくなった。この結果は、LAF1-RGGドメインは希薄な溶液中においても強い分子内相互作用によって収縮した状態を保持しいることを示唆している。 さらに、液滴中での一分子FRET測定を行うため、自作の共焦点レーザー走査顕微鏡を基盤とした顕微分光装置の開発にも取り組み、ほぼ完成させることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度で行うことを予定していた、液滴中での一分子FRET測定を行うための顕微分光装置の開発については、ほぼ計画通りに進展した。 また、LAF1-RGGの発現、精製、二重蛍光ラベル化を行い、希薄溶液中での一分子FRET測定を行うことができ、こちらもほぼ計画通りに進んだ。 以上の理由から、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
装置の開発はほぼ計画通りに進んでいるため、2020年度は、まずこの装置の性能評価を行う。性能評価を行いながら、装置の改良を進め、相分離した溶液中でのLAF1-RGGドメインの一分子FRET測定を行うことを目標にする。 さらに、LAF1-RGGドメインの相分離において、重要な残基であるチロシンをセリンなどで置換した相分離をしないLAF1-RGGドメイン変異体を作製する。これを二重蛍光ラベルし、相分離しないタンパク質と相分離するタンパク質を比較する実験も行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は主に装置開発のための部品の購入費用を支出したが、装置に使用するマイクロ流路の実験中の破損がなどがなかったため消耗品費をおさえることができた。また、本年度は海外での成果報告や、研究打ち合わせを行わなかったため、旅費の支出がなかった。 次年度以降も、装置の改良は継続するため、装置開発のための部品購入に使用する。また、タンパク質試料の発現、精製、ラベル化に必要な試薬の購入や、成果発表のための旅費として使用する計画である。
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