2019年度までに、二重蛍光標識したLAF1-RGGドメインに対して、高時間分解能一分子FRET測定を行い、LAF1-RGGドメインは希薄な溶液中においても収縮した状態を保持していることを示唆する結果を得た。さらに、2020年度までにLAF1-RGGドメインの全チロシンをセリンに置換した変異体と疎水性の高い部分を欠失させた変異体の二種類を作製、二重蛍光標識した。これらの変異体に対する同様の測定から、液滴形成にはカチオン-π相互作用と部分的な疎水相互作用が主要な役割を担う可能性を示唆する結果も得た。 2021年度は、上記の測定と並行して開発してきた液滴中での一分子FRET測定を行うための装置も完成したため、LAF1-RGGの液滴中での挙動を調べるため、特に液滴を作りやすいRNA存在下での測定を試みた。この測定を試みる過程で、残念ながら私達が作製した二重蛍光標識したLAF1-RGGドメイン試料には不純物として相当量のドナー蛍光色素のみが標識されたLAF1-RGGが含まれていることがわかった。このため、現状では液滴中での一分子LAF1-RGGのFRET効率変化をとらえることができていない。今後、二重蛍光標識の方法を改良することで、不純物の量を減らすことが必要である。 新開発した一分子FRET測定装置は様々な試料の測定にも応用可能なため、LAF1-RGGと同様に天然変性領域を持つタンパク質であるシチジンリプレッサーのDNA結合ドメイン(CytR-DBD)に対して測定を行った。この測定によってCytR-DBDが高塩濃度環境下や、分子混雑環境下で、収縮し折り畳まれた構造を持つことが一分子レベルで確かめられ、この結果は論文として報告することができた。
|