研究課題/領域番号 |
19K06578
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田久保 直子 東京大学, アイソトープ総合センター, 特任助教 (60447315)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 血管新生 / 細胞動態 / バイオイメージング |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、不均一な動態を示す細胞集団が統合された機能体である血管を形成するメカニズムの解明である。前年度までに、マウス大動脈組織片を用いたin vitro血管新生モデル(大動脈リングアッセイ)において、内皮細胞が血管伸長方向に進行後、方向転換して新生血管部根元まで逆走する興味深い細胞往復運動(Uターン動態)を発見した。 ( N. Takubo, et. al. Sci. Rep. 9, 9304 (2019))。本研究では、血管新生におけるUターン動態を含む内皮細胞のマクロスコピックな動態特性および動態メカニズムを定量的に明らかにする。特に、細胞群の力学的相互作用が個々の細胞動態パターンに及ぼす影響を明らかにし、細胞動態メカニズムを細胞の力覚応答の観点から明らかにする。 今年度は、前年度確立した培養内皮細胞(マウス膵臓由来内皮細胞(MS-1))のみから構成されるin vitro 2次元血管新生モデルを用いてライブイメージングを行い、他の血管細胞からの動態への影響が無い内皮細胞固有の動態を観察した。これまでに開発した自動セルトラッキングシステムを用いて内皮細胞の1細胞動態解析を行った結果、本モデルでもUターン動態を含む不均一な内皮細胞動態が観測された。さらに、本モデルにおいて細胞配向の解析を行った結果、細胞外基質外の内皮細胞供給源において細胞集団のマクロスコピックな流れが存在することが確認された。このことから、内皮細胞供給源には細胞流が引き起こす不均一な応力場が発生していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度までに発見したUターン動態のメカニズムを追及するためのin vitro血管新生モデルを確立した。これまでに行っていた単一細胞動態解析による内皮細胞の位置情報に加え、新たに細胞配向解析を取り入れ細胞の配向情報も得たことにより、血管新生メカニズムの解明につながる新たな知見を得た。一方で、コロナ禍による出勤制限により特に前期は実験の遂行が困難な状況であった。今年度から新たに開始する予定であった細胞の力覚応答の実験を来年度に遂行する予定とする。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今年度に引き続き、これまでに確立したMS-1を用いたin vitro2次元血管新生モデルを用いて細胞動態解析を行う。特に、マクロスコピックな集団細胞の流れが引き起こす不均一な応力場がUターン動態などのマクロスコピックな細胞動態パターン及ぼす影響を明らかにし、血管新生における細胞集団の力学的相互作用に関する知見を得る。 具体的には、血管内皮細胞群を流れのあるベクトル場としてとらえ、マクロスコピックな細胞動態特性を複雑系流体モデルで表すことを試みる。血管形状や細胞密度など各パラメータを変化させた数理モデルでの計算結果と実験結果を比較し、細胞動態における本質的なパラメータの見極めなど血管新生における内皮細胞動態について統合的に考察する。 次に、動態パターン発現が細胞供給数や血管形状に依存するというこれまでの実験結果から、本研究では、個々の細胞動態は、細胞集団や細胞外基質との力学的相互作用に影響を受けると仮定する。そこで、血管新生ライブイメージングにおいてアクチンなどの細胞骨格を可視化し、流れ場に対する細胞の力覚応答を調べる。また、蛍光ビーズを埋め込んだ細胞外基質の変位を観察し、細胞が細胞外基質に及ぼす力を可視化する。特に、血管先端部における方向転換時の細胞骨格の変化などUターン動態の力覚応答に着目し、Uターン動態のメカニズムを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で特に前期に実験の遂行および物品調達が困難であったため、今年度予定していた実験を次年度に遂行する予定としたため。
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