研究課題/領域番号 |
19K06579
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
松村 茂祥 富山大学, 学術研究部理学系, 講師 (40619855)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | RNAワールド / 実験進化 / リボザイム / 区画化 / マイクロ流体システム / 生命の起源 / 情報と機能の分離 |
研究実績の概要 |
生命の起源において、RNAはいかに進化しえたのだろうか? どのようにして、進化の原動力である分子の多様性が自発的に出現・蓄積し、またそこからどのようにRNAが高機能化しえたのかは、非常に重要かつ未解決の問題である。本研究では、マイクロ流路デバイスにより微小液滴を操作する技術(液滴マイクロ流体システム)を用いてRNA酵素(リボザイム)の実験進化を行い、この問題に切り込んでいる。 これまでに、リボザイムに人為的に変異を導入し、液滴を用いた実験進化を行うことで、リボザイムの高性能化を目指した。5ラウンドの進化サイクルの結果、活性の濃縮が確認されたため、プールから40種のクローンを単離し、配列および活性を解析したところ、野生型のリボザイムを超える活性を示すクローンを見出した。次に、得られた変異型リボザイムの活性を詳細に解析するとともに、実験進化をさらに進めるため、より高い選択圧をかけることのできるマイクロ流体デバイスの開発を行った。これまでの実験では、液滴の生成・保温・選別を別々のデバイスを用いて行っていたのに対し、新たに開発した統合デバイスでは、上記の全ての過程を1つのチップ上で行うことができるため、液滴の保温時間を極めて均一に、かつ短くすることができる。また、実験の再現性も大幅に高めることができる。この統合デバイスを用いて、ほぼ限界に近い選択圧をかけた追加の進化実験を行い、これをほぼ完了した。現在、各クローンの解析を進めている。 また、上記の実験進化の過程で、想定外の機能をもつ機能性RNAも出現してきた。解析の結果、これはリボザイムではなく、基質RNAに結合することでその蛍光を増強する能力をもつ新規なRNAであることが明らかとなった。さらに、この分子種は情報と機能を分離させている非常に興味深い特徴をもつことも判明した。この特性について、現在更なる詳細な解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までに、リボザイムに人為的に変異を導入し、液滴を用いた実験進化を行うことで、リボザイムの高性能化を行った。変異誘発PCRを用いて、RNA切断リボザイムであるVSリボザイムの遺伝子に変異を導入し、ランダム化ライブラリーを作製した。次いで、マイクロ流体システムによりそれら遺伝子を一つずつ微小液滴に封入し、液滴内でのリボザイム活性の評価・選別を行った。5ラウンドの進化サイクルの結果、活性の濃縮が確認されたため、プールから40種のクローンを単離し、配列および活性を解析したところ、野生型のリボザイムを超える活性を示すクローンを見出した。次に、実験進化をさらに進めるため、より高い選択圧をかけることのできるマイクロ流体デバイスの開発を行った。新たに開発した統合デバイスを用いることで、液滴の保温時間を極めて均一に、かつ短くすることが できる。この統合デバイスを用いた追加の進化実験をほぼ完了し、現在、各クローンの解析を進めている。 また、上記の実験進化中に、想定外の機能をもつ機能性RNAの出現が確認された。これはリボザイムではなく、基質RNAに結合することでその蛍光を増強する能力をもつ新規なRNAであった。さらに、この分子種は情報と機能を分業させている非常に興味深い特徴をもつことも判明した。この特性について、現在更なる詳細な解析を進めている。 これまでに、独自の実験進化の手法を開発し、かつそれを運用して、実際のリボザイム進化を行うことができた。また、実験をさらに進めるための新たなデバイスの開発にも成功し、それを用いた追加の実験進化もほぼ完了した。実験中に想定外に出現した機能性RNAの解析に研究のリソースを割いたため、当初計画より少し遅れているが、その解析により非常に面白い特徴をもつ新規分子の発見に繋がった。類似の特徴をもつ分子はこれまでに発見例がなく、本研究の今後の展開が大きく期待される。
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今後の研究の推進方策 |
開発した統合デバイスを用いて強い選択圧をかけた実験進化を行うことで得られたリボザイム集団を次世代シーケンサーで解析し、実験進化の過程でのRNA分子種の変化を調査する。この実験により、RNAの多様性がどのように変化しているのかがわかると考えられる。さらに、異なる活性をもつ複数種のリボザイムを同時に進化させるため、実験系のブラッシュアップを進める。具体的には、反応溶液の組成の最適化、およびマイクロ流体システム装置の光学系の改良を行う。また、想定外に出現した機能性RNAの解析をさらに進める。具体的には、その機能性RNAの出現過程を、次世代シーケンサーで解析する。次に、情報と機能の分離がなぜ生じたのか、変異体解析により解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度、本研究計画に関わる研究経費として、科研費以外の公的資金も獲得した。当助成金は単年度(本年度のみ)であったため、本研究にかかる経費は、優先的に当助成金から支出した。よって、次年度使用額が生じるに至った。 本研究は、当初計画より少し遅れが生じているものの、おおむね順調に進行していると考えている。次年度はこれを発展させ、さらに想定外に得られた実験結果の解析にも注力し、これを完了したいと考えている。次年度使用額は、それら解析実験の消耗品および成果報告の経費として使用する計画である。
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