研究課題
バクテリオロドプシン(bR)のプロトン輸送サイクルは、レチナール発色団が13-trans構造から13-cis構造に光異性化されることにより開始され、光サイクルの後半でレチナールの再異性化が熱的に生じ、光照射前の構造に戻る。このプロトン輸送サイクルの詳細は様々な手法によって明らかにされているが、レチナール発色団の再異性化についてはよく分かっていない。これを理解するため、本研究では、バクテリオロドプシン(bR)およびアーキロドプシン-2(aR2;別種の光駆動プロトンポンプ)の光反応サイクルを広いpH範囲で調べた。光誘起吸収スペクトル変化の解析の結果、bRおよびaR2のプロトン輸送サイクルの後半で生じるO中間体には、分光学的・速度論的に区別できる2つのサブ・ステートが存在することを見出した。具体的には、i)最初のO-中間体(O1)の吸収スペクトルは後期のO-中間体(O2)のものより20-30nmほど短波長側にシフトしており、ii)O1はその前駆体であるN中間体と動的平衡状態にあり、pHを上げると、NとO1の間の動的平衡にあるO1の量が減少し、それに比例してO2の形成速度は低下し、iii)対照的に、O2の崩壊速度は、pHを上げると10倍~100倍高くなる、ことが明らかになった。これらの実験結果をもとに、レチナール発色団の13-trans構造への熱的異性化は、O1からO2への遷移で起こる、つまり、O1でのレチナール発色団は歪んだ13-cis構造を呈していると推察した。結晶構造解析に最適なphRを発現する高度好塩性好アルカリ性古細菌Natronomonas pharaonis を使った形質転換系の作成を試みている。rosuvastatinという抗生物質が、アルカリ条件でも安定(1ヶ月程度)であることを見つけその耐性菌を単離し、耐性遺伝子変異を全ゲノム解析から探っている状況である。
4: 遅れている
コロナウイルス蔓延の影響のため研究活動の場所が限定され、当初予定していた高輝度放射光施設での実験が行えなかった。
1.バクテリアロドプシンのプロトン輸送サイクルの後半で起こるレチナールの再異性化の機構と明暗順応に伴うレチナール異性化の機構との類似性を調べる。2.アーキロドプシン2のプロトン輸送サイクルの後半で起こるレチナールの熱的異性化の機構を明らかにするため、反応中間体のX線結晶構造解析を企てる。
コロナウイルス蔓延が続き、研究活動の場所が限定され、また、学会発表がOnLineで行われるようになり、当初予定していた旅費を使う機会がなくなったため。
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