研究課題/領域番号 |
19K06585
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
川鍋 陽 香川大学, 医学部, 講師 (10707128)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | イノシトールリン脂質 / 電位依存性ホスファターゼ / 脱リン酸化酵素 |
研究実績の概要 |
本研究では、これまでの研究成果(Kawanabe et al.(2018) eLife)により得られたイノシトールリン脂質脱リン酸化酵素(PIPase)の酵素活性制御モデルの検証および構造変化解析を行う。具体的には電位依存性ホスファターゼVSPもしくはPTENに導入した非天然蛍光アミノ酸Anapの蛍光・FRET変化を検出することにより活性化状態へと至る構造変化の実体とPIPaseに共通する動作原理を明らかにする。 ①本年度は、6月に異動があり、これまでの実験設備を継続的に使用することが困難となった。従って、研究手法の変更を図り研究を継続することを模索している。具体的には、培養細胞を用いて分光解析により細胞質ドメインの動きを評価する予定だったが、アフリカツメガエル卵母細胞を使った蛍光変化解析を利用することに変更した。現在、現所属にて蛍光変化解析が可能になるようにシステムを立ち上げ、最適化を行っている段階である。 ②活性化制御の研究に基づいた、機能強化型VSPの構築を並行して行った(Kawanabe et al. (2020) J. Gen. Physiol.)。これは電位依存性ホスファターゼVSPを細胞膜PI(4,5)P2のレベルを人為的に操作するツールとして、より使いやすく改良する研究である。培養細胞で使用することを主眼とし、ゼブラフィッシュ由来のVSP(Dr-VSP)を基に、1)機能強化, 2)細胞膜局在の改善、の2点の改良を行った。1)は、活性化メカニズムを解析する中で発見した変異で、酵素活性が強化されるものを導入した(L223F変異体)。2)は、Dr-VSPは細胞膜への局在が悪く、シグナル配列(ホヤ由来VSPのN末配列)を付加することで改善した。これらの改良で、オリジナルのDr-VSPに対して、3倍程度酵素活性が強化されたeVSPを開発し、原著論文にて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は概要でも述べたように異動があり、既存のシステムを利用することが困難となったため、測定手法の変更を行い、当初目的を達成するための解析ができるようにシステムを立ち上げているところである。 現所属では、引き続き電気生理学的測定を行うことが可能であるが、蛍光変化解析に関する装備が整っておらず、その構築から開始した。具体的にはオリンパスIX-3蛍光実体顕微鏡に電気生理学装備(OC-725C + Digidata1550B)とともに光電子増倍管(H10722-20)を設置、電流を計測しつつ蛍光変化を追えるように設置した。蛍光光源として水銀ランプが強度が不安定など不適切であったので、高輝度LEDと交換した。これにより、アフリカツメガエル卵母細胞に蛍光ラベルした膜タンパク質の蛍光変化の計測が可能となった。実際、Ci-VSP G214C変異体に赤色蛍光物質テトラメチルローダミンを付加させ、蛍光変化が電位変化に応じて起こることを確認した。 一方で、研究成果の応用という意味では、分子ツールとして使いやすくしたeVSPを構築、原著論文で報告した。 これらを総合して、研究実施状況はやや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)蛍光変化解析:前年度に立ち上げた蛍光変化解析のシステムを用いて、細胞内構造変化を非天然蛍光アミノ酸Anapを導入して計測する系の動作確認を行い、最適化を実施する。そののちに、細胞内ドメインに導入したAnapと、別ドメインに付加したEGFPでドメイン間および、細胞膜に局在させた蛍光ラベル脂質との間でのFRETを解析することで、距離変動を評価し、どのような構造変化が起きているのかを検討する。 (2)スペクトル解析の立ち上げ:当初目標においては、Anapのスペクトル解析を行うことでより詳細な構造変化を追跡することを掲げていた。これは自家蛍光が低い(バックグラウンドが低い)培養細胞を用いた系で行うことを想定していたが、アフリカツメガエル卵母細胞での系においても適用できないかを検討する(当初計画案ではバックグラウンドが高いことを理由に放棄、培養細胞での適用を計画していた)。具体的にはバックグランドを下げるために、 メラニン色素の合成促進を行うHG-9-91-01を使う、または合成したメラニンそのものを卵母細胞に打ち込むことで、バックを軽減することを狙う。また、蛍光計測は分光器を光電子増倍管の代わりに接続することで、スペクトル解析が可能なように改造する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に異動したため、新たな測定装置のセットアップに時間がかかり、サンプル作成や処理に使用する高価な試薬(脂質・遺伝子操作)・消耗品の消費が低水準であったため残額が発生した。次年度においてはセットアップのさらなる改良のための経費(光源・蛍光検出器のアップグレード)と、上述サンプル作成・処理に使用する試薬購入のために残額を充当する予定である。
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