研究課題/領域番号 |
19K06587
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
松尾 光一 広島大学, 放射光科学研究センター, 准教授 (40403620)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 天然変性タンパク質 / リポソーム / ミエリン塩基性タンパク質 / 膜-タンパク質相互作用 / ホスファチジルイノシトール / 二次構造 / 放射光円二色性 |
研究実績の概要 |
真空紫外円二色性(VUVCD)を用いたタンパク質の二次構造(含量・本数・配列)解析から、水溶性タンパク質の膜結合構造研究を展開している。本年度は、ミエリン塩基性タンパク質 (MBP)の構造研究を、分子動力学(MD)法と組み合わせ実施し、MBPの膜結合構造や膜結合部位について検討した。 MBPは、ミエリン鞘という生体膜多層構造体の形成に寄与する膜結合タンパク質であるが、断片的な構造情報は報告されてきたが、Full-lengthのMBPの精密な膜結合構造については解明されていない。我々は、MBPの膜結合で重要となるホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルイノシトールリン酸(PIP)、ホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)脂質分子に着目し、これら分子から作成した直径100 nmのリポソームを生体膜として、MBPの膜結合構造の解析を行った。その結果、MBPはリポソーム非存在下ではランダム構造を形成するのに対し、リポソーム存在下ではヘリックス構造を形成することが分かった。また、二次構造解析の結果、脂質分子の負電荷の数の増加によって構造形成が促進されること(PI<PIP=PIP2)また、膜結合構造ではヘリックス含量が約40%、ヘリックス数が8本あることが分かった。MD法により、8本のヘリックス断片の膜結合性を調査した結果、膜結合部位として、2本の両親媒性ヘリックスと3本の非両親媒性ヘリックスが同定された。さらに、各アミノ酸残基と脂質分子のリン酸基との距離を解析した結果、非両親媒性ヘリックスは膜表面と静電的相互作用し、両親媒性ヘリックスは静電的・疎水的相互作用により膜表面より内部に侵入していることが分かった。 これらの結果は、VUVCDとMDの組み合わせ法が水溶性タンパク質の膜結合構造解析に有効であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
以下の利用により、当初の計画以上に進展していると評価した。 ①初年度は、α1酸性糖タンパク質(AGP)とミエリン塩基性タンパク質(MBP)を対象にし、VUVCD分光法による膜結合タンパク質の構造解析を行った。AGPの二次構造含量・本数・配列に関する研究については、論文にまとめることができた。またMBPの構造研究では、分子動力学法と組み合わせることで構造の精密化に成功した(令和3年5月に論文採択)。 ②2年目は、他の膜結合性タンパク質であるα-シヌクレイン(α-Syn)やマガイニン2(M2)に対して、VUVCDによる構造研究を実施し、膜結合に重要なアミノ酸部位や会合形成などを明らかにした。また、膜結合状態での膜の安定性を計測するため、自動偏光子ユニットを用いた蛍光異方性の測定を行い、膜結合構造の精密解析を行った。 ③直線二色性(LD)による膜結合タンパク質の二次構造の配向解析では、予備的な実験として実験光源を用いた測定が終了し、現在、放射光を用いたLD測定が実施され、すでに新しく対象となったタンパク質やペプチドに対しての実験を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の研究方針を以下に示す。 1.放射光円二色性装置を用いて、短波長領域までLDが測定できるシステムを構築し、高エネルギー遷移に基づいた膜蛋白質の配向構造解析法を開発する。MBP、AGP、α-Syn、M2の構造解析に応用し、配向構造の観点から構造の精密化を行っていく。また、膜内で多量体を形成した場合の配向構造の解析も実施し、LD法の有効性を高める。 2.α-Syn については、膜結合構造の精密化だけでなく、膜上でのアミロイド線維の構造や線維形成についての研究も実施し、膜結合構造と線維形成との関連性を調査する。M2に関しては、膜透過性などの機能についても解析を進めて、M2の構造と機能との関連性を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:実験器具や試料などの購入額で、当初よりわずかに差額が生じたため。 使用計画:今年度の実験器具や試料の購入資金に充てる。
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