研究課題/領域番号 |
19K06592
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
柴 小菊 筑波大学, 生命環境系, 助教 (70533561)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | cAMP / CNGチャネル / カルシウム / 鞭毛 / 精子走化性 |
研究実績の概要 |
真核生物の鞭毛運動制御メカニズムを明らかにするため、精子走化性における鞭毛波制御におけるカルシウムイオンとcAMPの役割に着目し、研究を実施した。カタユウレイボヤ精子の鞭毛波形形成過程の詳細解析、波形変化を引き起こす細胞内シグナルの可視化、キーシグナル因子の同定を行うことにより、精子の遊泳方向制御に重要な鞭毛波の対称化・非対称化におけるカルシウムイオンとcAMPの役割の全容解明を目指している。 今年度は、独自に構築したUVLEDを組み込んだ実験系を使用し、膜透過性ケージドcAMPおよびcGMPを取り込んだカタユウレイボヤ精子の細胞内サイクリックヌクレオチド濃度上昇に伴う鞭毛運動変化を高速カメラおよびカルシウムイメージングシステムにより解析した。cAMPの一過的な増加によりカルシウム存在下、非存在下両方において波形変化が見られたが、cGMPでは波形変化が見られなかった。サイクリックヌクレオチド感受性(CNG:cyclic nucleotide gated) チャネルの関与を調べるため、複数のCNGチャネル阻害剤を用いて精子走化性時の波形変化を調べた結果、精子走化性時の遊泳方向変換に必要な鞭毛波形変化が阻害された。カルシウムイメージングの結果、走化性におけるターン運動の際に示す細胞内カルシウムイオンの排出がCNGチャネル阻害剤存在下で抑制されることがわかった。これらの結果から、カタユウレイボヤ精子運動調節においてcAMPを介してCNGチャネルが活性化され、カルシウムイオンの排出制御に関与していることが示唆された。 これらの成果の一部については日本動物学会第90回大阪大会において口頭発表を行った。また鞭毛繊毛の波形解析技術を応用した共同研究の成果をCommun Biol.誌、Curr Biol.誌、PLoS Genet. 誌に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ケージドcAMP、ケージドcGMPを用いて、サイクリックヌクレオチドが引き起こす鞭毛波形変化過程および細胞内カルシウム濃度の挙動を詳細に解析した結果、ホヤ精子においてcAMPはカルシウム依存的、カルシウム非依存的の二つの条件下で異なる波形変化をもたらすが、cGMPの直接的な関与は認められなかった。またCNGチャネル阻害剤の精子走化性に対する効果を調べたところ、cAMPによるカルシウム依存的な波形変化が影響を受けることが明らかとなった。精子走化性における鞭毛波制御の分子機構において新たな知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
ケージド化合物を用いた実験データの追加を引き続き行うとともに、cAMPによる波形制御の分子機構を明らかにするため、CNGチャネルやアデニル酸シクラーゼなどのシグナル伝達経路に関わる分子の同定や機能解析を進める。また細胞内cAMPを可視化するための実験系の構築も併せて進める予定である。現時点で得られた新たな知見に関しては論文投稿を予定している。
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