研究実績の概要 |
精子は周りのイオン環境の変化や卵由来の化学物質を受容することで、運動開始、活性化、走化性などの運動性の変化を示す。これらの変化は、受精を高い効率で成功させるために多くの生物で獲得された機構である。受精時の精子運動性の変化を司る分子基盤を解明するために、鞭毛波制御におけるカルシウムイオンとcAMPの役割に着目し、カタユウレイボヤをモデルとして研究を実施した。 カタユウレイボヤ精子の鞭毛波形形成過程の詳細解析、波形変化を引き起こす細胞内シグナルの可視化、キーシグナル因子の同定を行うことにより、精子の遊泳方向制御に重要な鞭毛波の対称化・非対称化におけるカルシウムイオンとcAMPの役割の全容解明を目指した。 本年度は、昨年度に続きcAMPによる活性化が予測されるサイクリックヌクレオチド感受性(CNG:cyclic nucleotide gated)チャネルの精子走化性シグナリング経路への関与について解析を行った。tetraKCNG(tetrameric, cyclic nucleotide-gated, K+-selective)チャネルおよびHCN(hyperpolarization-activated and cyclic nucleotide-gated)チャネルに注目し、局在解析、機能解析を行った結果カタユウレイボヤ精子HCNチャネルはKCNGチャネルによって生じた過分極によって活性化され、カルシウムイオン排出を制御することにより、精子の走化性シグナリングに関与していることが示唆された。これらの研究成果をInt. Mol. Biol.誌に発表した。また第92回日本動物学会オンライン米子大会、The virtual Dynein 2021 International Workshopにおいて発表した。
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