研究課題/領域番号 |
19K06595
|
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
伊野部 智由 富山大学, 学術研究部工学系, 准教授 (50568855)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | プロテアソーム / 細胞内タンパク質分解 / Unstructured領域 / ユビキチン-プロテアソーム系 |
研究実績の概要 |
ユビキチン-プロテアソーム系(UPS)は真核生物における最も重要なタンパク質分解システムである。UPSの標的タンパク質選択はこれまで、ユビキチン化システムだけにより行われ、ユビキチン化されたタンパク質がプロテアソームにより認識され分解されると信じられてきた。しかしながら近年、プロテアソームによる分解には、ユビキチン化だけでは不十分であり、基質タンパク質自身に構造を取らないUnstructured領域が必要であることが明らかとなった。このことは基質タンパク質自体の性質も、プロテアソームのターゲット認識において重要であることを示唆している。そこで我々は基質タンパク質自身の電荷とUnstructured領域のアミノ酸配列がプロテアソームによる分解に与える影響を調べた。 まず構造や安定性は保ったまま等電点pIのみ異なったRNaseSaの変異体やGFPの変異体を用い、分解に及ぼす基質タンパク質の電荷の効果を調べた。その結果、プロテアソーム基質には分解に最適な電荷が存在することが分かった。例えば、負の電荷をもつRNaseSa野生型基質は分解されやすく、一定以上の正の電荷を持つRNaseSa変異体基質はプロテアソームの分解を免れる。一方、無電荷のGFP基質は効率的に分解されるが、極端に偏った電荷を付加すると分解されなくなる。このような基質タンパク質の電荷の効果は、反応溶液中のイオン強度を上げることにより緩和されることも分かった。 次にプロテアソームによる分解を誘導するUnstructured領域のアミノ酸配列の検索も行った。これまで数十個のアミノ酸配列について分解誘導効果を調べたところ、アミノ酸の配列が複雑であるほど、分解誘導効果は大きいことが分かったが、その分子メカニズムは不明である。そこでさらに多くの配列の分解誘導効果を調べるために、酵母を用いた遺伝学的スクリーニング系を確立した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目指す二つの目標(ターゲット蛋白質の電荷特性とその認識機構の解明とターゲット蛋白質のUnstructured領域アミノ酸配列特性とその認識機構の解明)のいずれにおいても、想定どおりの成果を得ている。
|
今後の研究の推進方策 |
1.ターゲット蛋白質の電荷特性とその認識機構の解明 これまでのモデルタンパク質を用いた実験により、極端に偏った電荷を持つタンパク質はプロテアソームにより分解されにくいことが示唆された。そこでこのような電荷の依存性が細胞内の全てのタンパク質において成り立つか、バイオインフォマティクス的手法で調べる。マウス4500種類のタンパク質の寿命のデータベースが既に公開されているので、それを用いて細胞内タンパク質の寿命と電荷の相関を解析する。さらに分解効率の電荷依存性の分子メカニズムや構造基盤を解き明かすために、光架橋法や相互作用解析などの物理化学的手法を用いた実験を進めていく。
2.ターゲット蛋白質のUnstructured領域アミノ酸配列特性とその認識機構の解明 これまでの研究で、プロテアソームによる分解を誘導・阻害するUnstructured領域のアミノ酸配列を検索するための遺伝学的スクリーニング系を確立した。今後、このスクリーニング系を用いて、数千万種類のランダムな配列をもつUnstructured領域を基質タンパク質に取り付け、酵母の選択培地中での生育を指標にして、基質タンパク質の細胞内での安定性を調べる。分解を引き起こすアミノ酸配列と引き起こさない配列が明らかになれば、その分子基盤を解き明かすためにUnstructured領域のプロテアソームへの結合の強さと分解のされやすさの関係や、プロテアソーム上のUnstructured領域の認識部位の検索を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験系確立のための試行錯誤的な実験で、多くの消耗品費を見込んでいたが、思いのほか順調に実験系が確立したので次年度使用額が生じた。 次年度は大規模な配列スクリーニングを行う。そのため多く消耗品の使用が見込まれ、さらにFACSなどの共通利用機器の利用料も高額になると見込まれる。次年度使用額をそれらに充て、効率的なスクリーニングを行う。
|