これまでユビキチン-プロテアソーム系(UPS)の分解標的蛋白質の選択は、ユビキチン化システムだけにより行われ、ユビキチン化蛋白質がプロテアソームにより認識され分解されると信じられてきた。しかしながら基質蛋白質自体の内包的性質も、プロテアソームの基質認識において重要であることを示唆する報告が相次いでいる。本研究ではこのような蛋白質内包性の分解シグナルに注目し、プロテアソームの基質認識機構の解明を目指した。特に、①電荷をもった蛋白質が効率的に分解されるのか? ②どのようなアミノ酸配列を持ったUnstructured領域が分解を誘導するのか? という問いに対して、以下のような成果をあげた。
1. 電荷変異蛋白質を基質とし、そのプロテアソームによる分解の受けやすさを調べたところ、電荷に強い偏りのある蛋白質はプロテアソームに認識されず分解されないが、電荷分布のバランスがとれた蛋白質は効率的に分解されることがわかった。分解のための電荷バランスは、最適等電点(pI)によって定義することができ、基質の種類によって分解最適pIが異なっていた。同様の電荷依存性が細胞内での蛋白質の半減期においても観測されたことから、プロテアソームの静電的基質嗜好性が細胞内蛋白質の安定性に寄与している可能性がある。 2. 分解を引き起こすアミノ酸配列と起こさない配列を明らかにするために、ユビキチン鎖を取り付けた酵母ヒスチジン合成酵素His3pを分解基質蛋白質として用いた遺伝学的スクリーニング系を確立した。このスクリーニング系を用いて、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)のC末端Unstructured領域配列をもとにして数百万種のランダムな変異解析を行ったところ、分解に重要な領域とその物理化学的な特性が明らかとなった。
さらに、以上の成果を元にした分解制御法の開発にも取り組み、継続研究課題につながっている。
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