研究課題/領域番号 |
19K06596
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
紺野 宏記 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 准教授 (80419267)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞内小胞輸送 / 高速原子間力顕微鏡 / 酸化ストレス |
研究実績の概要 |
研究代表者らは、抗酸化酵素ペルオキシレドキン(Prx)が負電荷を有するリン脂質およびヌクレオチドと会合して直径30-80 nmの小胞(以後、Prx-MVと記す)を形成することを最近発見した(Haruyama et al., J. Mol. Biol. 2018)。本研究課題では、これまでに全く知られていなかったこの意外な発見を土台に、Prx-MVが最近注目されているエクソソームを含む細胞内外小胞の一形態であることを提案し、その形成メカニズム、細胞内(外)における動態および生理学的機能を明らかにする。そのため、はじめに脂質やヌクレオチドとの相互作用に重要なPrx上のアミノ酸残基の同定を行った。つぎに、細胞内(外)小胞におけるPrxの局在を解明するため、蛍光タンパク質と融合させたPrx, 細胞内(外)小胞マーカータンパク質をそれぞれ発現する細胞株を樹立し、それらの細胞内におけるPrx, 細胞内(外)の酸化ストレス依存的な局在の関連性を調べた。さらに、脂質、ヌクレオチド依存的に形成されるPrx高分子複合体の構造ダイナミクスを高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)により観察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脂質やヌクレオチドとの相互作用に重要なPrx上のアミノ酸残基の同定について、Prx上の脂質結合に重要なアミノ酸残基の同定は一昨年にすでに完了したので、昨年はPrx上のヌクレオチド結合部位の同定に関する実験計画を遂行した。Prx上にあるヌクレオチド結合部位の同定は、当初、フェニルアジド基を付加したヌクレオチドを使用してPrxとヌクレオチドを分子間架橋させ、架橋部位を質量分析法により同定する手法を用いた。しかし、この方法ではPrx上のヌクレオチド結合を同定することはできなかった。そこで、タンパク質のヌクレオチド結合部位を予測するwebサイト(ATP bind)を利用して、ヌクレオチド結合部位候補をいくつか絞り込んだ。候補に挙げたアミノ酸がヌクレオチド結合に重要かどうかについては、アミノ酸の部位特異的変異導入法により調べた。その結果、Prx上に存在する2つのアミノ酸残基がヌクレオチドとの相互作用に重要であることを明らかにした。細胞内(外)小胞におけるPrxの局在解明については、蛍光タンパク質と融合させたPrx、初期エンドソームマーカータンパク質、後期エンドソームマーカータンパク質を発現する細胞株の樹立を行い、Prxとの局在の関連性を調べ、Prxの脂質結合能が、酸化ストレス依存的な初期および後期エンドソームの局在に大きく影響することを明らかにした。さらに、細胞外小胞であるエクソソームのマーカータンパク質とPrxの局在の関連性も調べた。さらに、調製したエクソソームをプロテアーゼ K 処理によりエクソソーム膜上に存在するタンパク質を限定分解させた。プロテアーゼK未処理のエクソソームとの比較をウェスタンブロット法で行い、エクソソームの膜・内部画分におけるPrx量を解析したところ、Prxはエクソソーム膜にも表在していることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
タンパク質およびエクソソーム内包マーカータンパク質の動態のmulti-color蛍光超解像ライブイメージングを行い、小胞輸送 とPrx の結合で形成される袋(vesicle)状のナノ粒子の生成後の経時変化がどのようになっているかを明らかにする。これらの解析を初期エンドソームと後期エンドソームにも適用し、Prxが初期エンドソーム、後期エンドソーム、エクソソームの表面に常に存在するのか、それとも特定の段階においてベジクルに取り込まれるのかを明らかにする。さらに、AFM観察中にヌクレオチドを加え、どのような過程を経てPrx、脂質、ヌクレオチドが含まれた高分子複合体が形成されるかを、高速AFMを用いた詳細な表面構造観察により明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による消耗品の納期遅延によるため
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