タンパク質の構造転移の理解や制御のためには、タンパク質の構造転移の大域的な自由エネルギーランドスケープの計算が必要であるが、全原子モデルでは長時間にわたる計算が必要であり、簡便には実行できない。そこでこれを可能にすることを目的とした、局所構造変化の協同性を考慮した粗視化モデルであるカメレオンモデルを開発し、より広範囲のタンパク質を対象とできるように改良を行っている。 最終年度に実施した研究は以下のとおりである。 1.二次構造の移動をともなうアロステリック転移を起こすシングルドメインタンパク質であるNtrCを対象にした計算では、コンタクトの選び方やポテンシャルの関数形によらずに比較的高い自由エネルギー障壁が存在することがわかったため、マルチカノニカルサンプリング手法を実装することになった。今年度はモンテカルロ法による構造サンプリングを行うこととし、1ステップごとにごく短い分子動力学法を行って構造候補を生成するハイブリッドモンテカルロ法を実装した。その結果、自由エネルギー障壁の高さが高く(10kTに)なるとともに、不活性構造付近の状態が2つに分かれていることが明らかとなった。 2.四次構造変化をともなうアロステリック転移を起こすマルチサブユニットタンパク質であるヘモグロビンを対象にした計算では、ヘモグロビンが酸素濃度の上昇に伴って四次構造転移を起こす様子をカメレオンモデルで再現できるかどうかを検討した。このためにシミュレーション温度、酸素の結合・解離に関連したパラメータの検討を行った。 3.トポロジーの変化をともなうアロステリック転移を起こすメタモルフィックタンパク質であるXCL1についても計算を開始したが、自由エネルギー障壁が非常に高く、ハイブリッドモンテカルロ法を試みたものの、安定な計算を実現するところまでは到達できなかった。
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