研究課題
ヘモグロビン(Hb)の強力なアロステリック・エフェクターbezafibrate(BZF)やinositol hexaphosphate(IHP)は、HbのR-T平衡をTに傾けるだけではなく、R状態の酸素親和性を低下させることが知られている。しかし、これらのエフェクターがどのようなメカニズムでどの程度R状態の酸素親和性を低下させるかについては相反する結果が報告されており、論争が続いている。エフェクターの結合したR状態Hb結晶の酸素平衡曲線はこの論争に決着をつける切り札になると考えられている。本研究では共結晶構造が登録されているBZF付きR状態ウマ・CO型Hb共結晶(沈殿剤はPEGで結晶空間群はC2221)とBZFの類似化合物L35付きR状態ウマ・CO型Hb共結晶(沈殿剤はPEGで結晶空間群はC2221)の酸素平衡曲線の測定を行い、エフェクターの結合したR状態Hbの酸素親和性を直接決定した。両エフェクター共にRの酸素親和性を2-3倍程度低下させることが示された。しかしながら、L35付きR状態ウマ・CO型Hb共結晶の酸素親和性は通常のRより約2000倍も低下すると報告した先行研究(結晶の酸素平衡曲線測定ではなく溶液データからの類推)があり、発表には細心の注意が必要である。この年度は、共結晶の酸素平衡曲線測定の結果をより信頼性の高いものにするため、コントロール実験として、エフェクターなしR状態ウマ・メト型Hb結晶(沈殿剤は硫酸アンモニウムで結晶空間群はC2)にBZFまたはL35を浸透させた後の結晶の酸素平衡曲線の測定を行い、共結晶の酸素平衡曲線の結果と一致することを確認した。結晶空間群の異なる結晶で同じ結果が得られたことから、結晶格子力によるアーチファクトの可能性は排除され、観測された比較的穏やかな酸素親和性の低下はエフェクター結合による変化であることが実験的に示された。
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人工血液
巻: 31 ページ: 43-53