研究課題/領域番号 |
19K06602
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
上村 慎治 中央大学, 理工学部, 教授 (90177585)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 微小管繊維回折 / 熱膨張係数 / 冷却収縮 / 非等方性 / 微小管安定化剤 / 脱重合閾温度 / タキソール / ラウリマライド |
研究実績の概要 |
シンクロトロン施設として、兵庫県佐用郡のSPring-8・BL40XU(照射強度が高い)を用いて、重合に適した緩衝液中で配向させたウシ脳微小管の構造変化を、様々な微小管安定化剤、抗がん剤の存在下で調べ、新しい成果を得た。この成果は、論文発表の準備を現在進めつつある。
スペイン側共同研究室から提供された純度の高いウシ脳チューブリンを使い、微小管重合後の懸濁液を、ΔT= -15度/20秒ほどの速度で冷却する装置の開発に成功した。また、このときの微小管の構造変化を再現性よく追跡することもできた。この新規の技術を使い、以下のような5つの新しい知見が得られた。
1つ目は、微小管が長さ方向と直径方向で、異なる冷却収縮率、つまり、異なる熱膨張率を持つ点である。チューブリン分子の形状変化を考える上で興味深い。2つ目は、17度が微小管構造を維持できる臨界温度である点が明らかになった。これは過去の報告とよく一致している。3つ目は、微小管安定化剤の存在下、上の熱膨張率が変化することを発見した点、4つ目は、微小管安定化剤の種類によって、上で述べた熱膨張率の非等方的な性質がより強調される点である。これは微小管構造を安定化させる機構を探る上で興味深い。5つ目は、冷却・加温によって脱重合から重合する相へと変化させることができ、同時に、再形成される微小管構造上のヒステリシス、つまり、脱重合時と再重合時の構造の違いも観察することができた点である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
微小管の冷却時の構造変化を刻々と追跡する新規の実験系として確立できた。これにより、微小管の重合・脱重合の化学的な平衡(数十秒~分単位の変化)、微小管構造の物理的な性質(サブ秒単位以上の変化速度)を区別して議論できるようになった点は大きな進展である。現在の装置の改良を進めることで、観測精度を上げることが必須と考えられ、そのための準備を現在進めている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、ΔT= -15度/20秒の速度で冷却し、微小管が脱重合する直前の構造を調べることができるようになった。本研究から、SPring-8の高輝度X線を使用することで、0.3~0.5秒のX線暴露で構造解析が可能となることもわかってきたので、より高速の温度変化、つまり±15度/5秒程度の冷却・加温速度で繰り返して温度を変化させることで、より精密な議論ができるような解析を目指す。さらに、チューブリンによるGTP加水分解反応が、微小管の構造安定性と密接に関わることがわかっているので、GTPアナログを使った構造解析へと展開したい。 一連の研究成果をまとめ、電子顕微鏡による微小管構造の解釈の上で、補足できるような新知見として提供したい。さらに、生理的な条件下で分子レベル・原子レベルの構造を追跡できる繊維回折法の強みを生かし、他の生体繊維構造解析へと展開させる足がかりとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年,5-6月に実施予定の実験に合わせて,装置の組み立て,特に,その中の部品となる特殊な温度制御用銅板の作成(1ヶ月ほどの期間を要する)と,試料温度の調節装置をくみ上げる必要があり,2021年度の予算を前倒し支払いを請求した経緯がある。その予算の中から装置部品を製作・購入し,残額を2021年度予算とした。
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