研究課題/領域番号 |
19K06606
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
大島 勇吾 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (10375107)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 電子スピン共鳴 / イメージング / 近接場プローブ / 活性酸素種 |
研究実績の概要 |
核磁気共鳴 (NMR) は、近年MRIにおいて医学用のイメージング技術として応用されている一方で、もう1つの磁気共鳴法である電子スピン共鳴 (ESR) は、活性酸素種 (ROS) などのフリーラジカルを同定・定量化できる強力な手法であるにもかかわらず、測定手法や利用されている周波数帯の電磁波侵入長の問題から、医学用や生物学用のイメージング技術としてはあまり多く利用されていない。そこで本研究は、ミリ波帯の空洞共振器に近接場チップを取り付ける新規のESRイメージング技術を提案する。この手法の開発により、これまでESRイメージングで問題になっている、水によるマイクロ波の誘電損失や空間分解能の問題を解決し、当該分野にブレークスルーをもたらす事を目的としている。 今年度は先ず、ESRイメージング装置の測定プローブの初期開発を行った。ESR測定は既存のミリ波ネットワークアナライザーを用い、試料ステージは低温・磁場中で動作し位置情報も取得できるピエゾポジショナーを利用した。さらに、ピエゾポジショナーの位置を制御し、スキャンしたESR信号を処理して画像化するソフトウェアをLabVIEWで構築した。また、空洞共振器に近接場チップを取り付けた際、ミリ波のパワーに多大な損失が観測されたため、ひとまず空洞共振器のカップリングホールの近接場を用いた。 ESRの標準試料の1つである硫酸銅を用い動作確認を行ったところ、室温では良好な試料画像が得れたが、低温に冷やすとESR信号自体は観測できたものの、電磁波干渉のために鮮明な画像が得られなかった。今後は鮮明な画像が得られるよう装置を改良していく予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り、ESRイメージング装置のプロトタイプは完成し、LabVIEWを使って作成した画像化ソフトウェアも問題なく動作している。また、室温・ゼロ磁場下では試料の形状を反映した良好なイメージが得られた。 しかしながら、低温・磁場中では鮮明なESRイメージが得られないため、その原因を精査したところ、装置の近接場プローブから発振された電磁波がマグネット内のクライオスタットと電波干渉を起こしている事が判明した。
|
今後の研究の推進方策 |
開発したプロトタイプを用いて低温で測定すると、ESR信号は観測されたが、画像化のためのスキャンを行うと良質なESRイメージが得られなかった。良質の画像が得られない理由として(1)プローブとクライオスタットの間で電波が乱反射して干渉を起こしている、(2)近接場プローブから発振されるミリ波の強度が弱すぎて試料のESR信号が微弱、の2点の原因が考えられる。 来年度は、この問題を解決するために(1)試料スペースとクライオスタットの間にミリ波吸収材の使用(2)アンプを用いたミリ波の増幅(3)試料に強磁性体を使用し、良質なESRイメージを得るためのESR信号のS/N比の向上を行う。また現在は、空洞共振器のカップリングホールを近接場に利用しているが、近接場チップも利用しその最適化を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ESRイメージング装置を開発していく過程で本研究に支障が生じ、研究目的の達成のためには、ミリ波パワーの増強が必要と判明したため、急遽、ミリ波増幅器を購入した。 このため初年度に購入を予定していたポジショナーのコントローラーが購入できなかったため使用額を次年度に持ち越す事にした。
|