核磁気共鳴(NMR)は、近年MRIにおいて医学用のイメージング技術としてすっかり定着したのと引き換えに、もう1つの磁気共鳴法である電子スピン共鳴(ESR)は、活性酸素腫(ROS)などのフリーラジカルを同定・定量化できる強力な手法であるにもかかわらず、測定手法や利用されている周波数帯の電磁波侵入長の問題から、医学用/生物用のイメージング技術としてはあまり多く利用されてない。本研究は、これまでのESRイメージング研究で問題になっている、水によるマイクロ波の誘電損失や空間分解能の問題を解決するべく、ミリ波帯の空洞共振器に近接場チップなどを取り付けるESRイメージング技術の開発を試みている。 初年度にミリ波を用いたESRイメージング装置のプロトタイプを構築したが、近接場チップの取り付けによるミリ波パワーの損失や共振器のQ値の低下、また、プローブとクライオスタット間の電波干渉により鮮明なESR2次元イメージが得られなかった。このため次年度は、チップではなく共振器のカップリングホールの近接場を用いる仕様に変更した。さらに、増幅器によるミリ波出力の増強およびテスト試料をYIG(イットリウム鉄ガーネット)に変更することによりS/Nの向上を行なったが、試料のポジションに関係なくESR吸収が起きる事が判明し、鮮明なESRイメージは得られなかった。 この原因として、近接場チップやカップリングホールが単なるアンテナとしてしか働いていない可能性がある。そこで、最終年度ではより効率的な近接場を得るために垂直方向のポジショナーを導入したが、結局のところ、ESRイメージングの2次元画像化の向上に寄与しなかった。ミリ波を用いたESRイメージングには異なる検出法が必要であることがわかった。
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