研究課題
生活習慣病の発症は環境要因に誘発された組織間の相互作用異常に起因すると捉えることができ、病態を組織横断的に理解することが求められている。本研究では脂肪組織と神経の情報伝達に着目し、肥満と代謝異常を呈するヒストン脱メチル化酵素欠損マウスをモデルとし、組織間の情報伝達を記憶するエピゲノム機構を明らかにすることを目的とする。ヒストン H3 9番目のリジン (H3K9) 脱メチル化酵素 JMJD1A のノックアウトマウスは、交感神経系が活性化される長期寒冷刺激を受けても、白色脂肪組織のベージュ化が起こらず、蓄えたエネルギーを消費しにくい表現型を示す。交感神経系を介した白色脂肪組織および脳視床下部の機能異常を明らかにするために、野生型および JMJD1A ノックアウトマウスの皮下白色脂肪組織の間質血管細胞群を用いて、シングルセル RNA-シークエンス解析を行い、前駆脂肪細胞、線維芽細胞、血球細胞など複数の細胞種の遺伝子発現データを取得した。また脳視床下部を用いて、シングルセル RNA-シークエンス解析を行い、神経、オリゴデンドロサイト、血管内皮細胞など複数の細胞種の遺伝子発現データを取得した。さらに JMJD1A の遺伝子欠損によって、ある特定の細胞種において発現が変動する遺伝子群を見出した。肥満や脂肪組織の機能異常がエピゲノム変化に起因するかを明らかにするために、JMJD1A のヒストン脱メチル化酵素活性部位に一アミノ酸変異 (H1122Y) を導入したノックインマウスを作製し、 表現型の解析を行った。ノックインマウスは、通常食下において野生型マウスに比べ肥満を呈し、インスリン抵抗性、耐糖能の異常を示した。長期寒冷刺激を受けたノックインマウスでは、白色脂肪組織においてベージュ化に関連する熱産生遺伝子の発現誘導とエピゲノム変化が見られなかった。
2: おおむね順調に進展している
交感神経系を介した白色脂肪組織と脳視床下部による代謝制御とエピゲノム機構を明らかにするために、JMJD1A ノックアウトマウスの脂肪組織の間質血管細胞群および脳視床下部のシングル RNA-シークエンス解析を行い、単一細胞レベルでの遺伝子発現データを取得できた。また、肥満や脂肪組織の機能異常がエピゲノム変化に起因するかを明らかにするために、JMJD1A の酵素活性部位に点変異 (H1122Y) を導入したノックインマウスを作製し、解析を行い、肥満、代謝異常、脂肪組織ベージュ化の抑制、エピゲノム異常など予想される表現型を得ることができた。よって、研究はおおむね順調に進展している。
得られた脂肪組織の間質血管細胞群と脳視床下部のシングルセル RNA-シークエンスの結果について、さらに詳細な解析を行い、交感神経系を介した脂肪組織と脳視床下部による代謝制御とエピゲノム機構を明らかにする。JMJD1A ノックアウトマウスおよびノックインマウスを用い、脳視床下部の摂食制御におけるエピゲノムの役割を明らかにする。
予定していた次世代シークエンス解析の一部を、次年度に行うことになったため。
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Sci Rep
巻: 10 ページ: 7817
10.1038/s41598-020-64902-8
巻: 10 ページ: 10837
10.1038/s41598-020-67579-1