研究課題/領域番号 |
19K06609
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 祥子 東京大学, 定量生命科学研究所, 特任助教 (90624966)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ヘテロクロマチン / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
真核生物の細胞核内において、クロマチンは高次に折りたたまれ、構造的・機能的に異なる区画を形成して遺伝子発現制御やゲノムの安定化に寄与している。ペリセントロメアなど繰り返し配列を多く含む領域は、転写やDNA組換えに対し抑制的に働く構造である、構成的ヘテロクロマチンを形成している。構成的ヘテロクロマチン領域は、ヒストンH3の9番目のリシン残基がトリメチル化(H3K9me3)されており、H3K9me3を認識して結合するヘテロクロマチンタンパク質(HP1)をはじめとするタンパク質群が結合して形成されている。構成的ヘテロクロマチンでは、H3K9me3は、主にヒストンメチル基転移酵素であるSUV39H1およびSUV39H2により導入される。本研究は、構成的ヘテロクロマチンの形成と維持の機構を明らかにするため、HP1およびヒストンメチル基転移酵素とヌクレオソームとの複合体の構造を解明することを目的としている。 2020年度は、SUV39H1とヌクレオソームの複合体を試験内で再構成するため、SUV39H1を精製し、ヌクレオソームへの結合試験を行なった。併せて、SUV39H2を精製し、SUV39H1と同程度の精製度でリコンビナントタンパク質が得られた。SUV39H2の活性中心を含むドメインはX線結晶構造が明らかにされており、構造的な知見が蓄積しいているため、ヌクレオソームとの複合体の構造についてより詳細な解析を行なえる可能性が広がった。並行して、HP1を結合させた再構成クロマチンを試料にクライオ電子線トモグラフィを行ない、HP1-トリヌクレオソーム複合体と考えられる粒子のクライオ電子顕微鏡像を取得することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2020年度は、SUV39H1およびSUV39H2とヌクレオソームの複合体を試験管内で再構成するため、これらのタンパク質を大腸菌において過剰発現させ、精製方法を検討した。その結果、アグリゲーションを含まないSUV39H1およびSUV39H2の分画を高純度で得ることに成功した。また、SUV39H1またはSUV39H2-HP1-ヌクレオソーム複合体の構造解析に向け、HP1-ヌクレオソーム複合体の構造情報を得ておく必要がある。HP1-ダイヌクレオソームの精製方法は確立しており、構造情報は既に明らかになっている。従って2020年度は、HP1-トリヌクレオソーム複合体を試料にクライオ電子線トモグラフィを行ない、データ取得に成功した。これらの基盤情報は、ヘテロクロマチン様複合体の構造解析を推進するために重要な知見である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度には、精製したSUV39H1またはSUV39H2とモノヌクレオソームを用いて結合試験を行なった結果、SUV39H1またはSUV39H2-ヌクレオソーム複合体の形成を検出することができなかった。今後は、ダイヌクレオソームまたはトリヌクレオソームを用い、SUV39H1またはSUV39H2と複合体を形成させる。適切な基質の選択、および試料濃度・架橋条件の検討を行ない、複合体の精製系を確立する。精製した複合体を試料として、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析、またはクライオ電子線トモグラフィにより複合体の構造を解析する。
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