研究実績の概要 |
近年、塩基配列上遠距離に位置するゲノム領域間の相互作用が遺伝子発現制御に関与していることが明らかとなってきた。マウス胚性幹(ES)細胞において多能性維持に重要な転写因子をコードするNanog遺伝子は相互作用するゲノム領域が多数且つ広範囲(30 Mb以上)に散在する、極めて特異な性質を有している。研究代表者の研究結果から、Nanogはプロモーター活性状態によってそれらゲノム領域との相互作用が大きく変化することが示唆されている。しかし、Nanogと相互作用する全てのゲノム領域が転写調節に関与するのか否か、またその相互作用と転写活性化の直接的な関係は依然として不明である。本研究では、マウスES細胞におけるNanogの転写活性化と相互作用領域との関係性を明らかにするために、sequential-FISHおよび独自に確立した特定遺伝子の核内局在および転写活性の可視化技術の改良法によって、遺伝子領域間相互作用と遺伝子発現の相関および動態を解析し、高次ゲノム構造動態と遺伝子発現制御の関係理解を目指す。 昨年度は、マウスES細胞におけるNanogの転写活性化と相互作用領域との関係性を明らかにするために確立した特定遺伝子の細胞核内局在と転写活性を高い精度で検出する技術を利用して、転写動態と転写制御因子の局在の関係性を調べた。その結果、RPB1やBRD4が転写活性状態特異的に遺伝子近傍でクラスターを形成することを見出し、プレプリントサーバーで論文を公開した (Ohishi et al., bioRxiv, 2022)。また、sequential-DNA/RNA-FISHを実施し、転写活性特異的な高次ゲノム構造を明らかにした。
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