DNA損傷チェックポイント機構は、DNA損傷を感知し、シグナル伝達を介した細胞周期の一時停止やDNA修復の促進により、ゲノム安定性を維持する機構である。チェックポイントクランプ9-1-1(Rad9-Hus1-Rad1)は、リング状のヘテロ三量体で、損傷の感知、伝達、修復のいずれにも関わる重要な因子であり、一本鎖DNAと二本鎖DNAの境界部を認識してDNAを囲む形でDNA上に装着(ローディング)される。本研究では、9-1-1がDNA装着後、除去されるまでの反応の分子機構解明を目的とした。 我々は、2021年度までにアフリカツメガエルの卵核質抽出液(NPE)を用いて、9-1-1によるDNA損傷の感知・シグナル伝達を検出する系(チェックポイント活性化検出系)とDNA修復初期過程のDNA末端削り込み反応の検出系を確立した。DNA損傷後のDNAを模倣したDNAとして、一本鎖環状DNAにオリゴヌクレオチドをアニールさせたDNA(DNA複製阻害時を模倣)と、線状の二本鎖DNA(二本鎖DNA切断時を模倣)を用意した。興味深いことに、前者に対するチェックポイント活性化には9-1-1が非常に重要であるのに対し、後者では9-1-1に加えMRN(Mre11-Rad50-Nbs1)と呼ばれる多機能因子が重複して活性化に寄与することが分かった。さらに、二本鎖DNA切断時には、9-1-1とMRNがDNA末端の削り込みにも重複して関わることが分かった。 最終年度には、これらの結果を踏まえ、二本鎖切断後にDNAに結合する因子を解析した。その結果、9-1-1とMRNが重複してチェックポイント活性化因子TopBP1を損傷DNA上に呼び込むことや、削り込みに関わるDna2ヌクレアーゼが特にMRN依存的にDNAに結合することなどを見出した。これらの成果は学会等で発表しており、投稿論文も準備している。
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