研究課題/領域番号 |
19K06614
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
日詰 光治 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (10378846)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | DNA複製 / ヌクレオソーム / クロマチン / 原子間力顕微鏡 / AFM |
研究実績の概要 |
DNAの複製に伴い、アセチル化などの修飾を受けた鋳型鎖コアヒストンをLeading鎖とLagging鎖へ分配する機構は、鋳型鎖と同様のクロマチン構造を両新生鎖に再形成するうえで重要である。本研究では、新生鎖へのヒストンローディングに機能していることが最近報告されたMcm2やDpb3-Dpb4などの複製関連因子のヒストンシャペロン活性の有無をin vitro で検証する。また、ミニ染色体上の新生鎖をAFM観察し、Mcm2やDpb3-Dpb4、あるいはCAF1などのヒストンシャペロン因子の新生鎖クロマチン形成における機能解析を行う。以上の研究により、鋳型鎖から新生鎖へクロマチン構造を継承する「エピジェネティクスの継承機構」を構造的に理解する。 初年度の計画では、精製タンパク質を用いたヒストンシャペロン因子の機能解析を開始し、また、ミニ染色体を用いた実験のセットアップを行うこととしていたが、おおむね計画通りに進行している。リーディング鎖DNAポリメラーゼサブユニットや、複製ヘリカーゼのサブユニットのうち、ヒストン結合が報告される因子(Dpb3-Dpb4とMcm2)について、その精製標品を用いたヒストンシャペロン活性測定を開始している。未だ活性は検出されていないが、引き続き反応条件を最適化するなどして、調査を継続する予定である。また、ミニ染色体を用いた実験のためのセットアップも実施している。それぞれについて、生化学実験に重点を置いた解析を行ってきたため、次年度以降はAFMを利用した解析に展開できるよう、試料調整方法を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、ヒストン結合が報告されているDNA複製因子について、ヒストンシャペロン活性を有しているかどうかの生化学的解析に順調に着手している。ミニ染色体の精製についても、実験材料の準備を行い、次年度以降の実施に向けての着実な準備を行っている。以下に、具体的な進捗状況について述べる。 PolεのサブユニットであるDpb3-Dpb4複合体は、ヒストンH2A、H2Bと相同性の高いドメインを有することが知られている。また、ヒトのPolεのサブユニットPOLE3-POLE4がヒストンシャペロン活性を有するということが近年発表された。これをふまえ、Dpb3-Dpb4のヒストンシャペロン活性測定を行った。出芽酵母ヒストンオクタマーと、Dpb3-Dpb4、DNAとを試験管内で混合し、AFM観察や、MNase消化実験によりヌクレオソーム形成の有無を試験したが、ヒストンシャペロン活性は検出されなかった。また、Dpb3-Dpb4とH2A-H2Bとの相同性をふまえ、ヒストンH3-H4とDpb3-Dpb4によりヌクレオソーム様構造が形成され得るかどうかの実験にも着手した。これらを、DNA及びNap-1と混合した結果からは、ヌクレオソーム様構造は検出されなかった。以上の実験について、さらに実験条件を最適化するなどし、Dpb3-Dpb4とクロマチンとの関連を引き続き調査する。 また、複製ヘリカーゼCMG複合体のサブユニットMcm2のアミノ基末端に関しても、ヒストンとの結合能が報告されるなど、クロマチンとの関連が示唆されている。そこで、出芽酵母Mcm2のN末端部分タンパク質の発現・精製を行った。これを利用して、ヒストンシャペロン活性の測定や、クロマチン構造への影響などについて、Dpb3-Dpb4と並行して、検討していく。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通りに今後の研究を遂行する。現在精製タンパク質を用いて実験している複製因子とクロマチンに関しては、すでに着手している生化学的な解析に加え、AFMを用いた可視化解析も実施する。これにより、ヌクレオソームの形成/解離だけでなく、ヌクレオソームに対する因子の結合の様子や、結合の結果形成される高次構造の解析を行う。 また、ミニ染色体の解析も進める。複製途中の状態のミニ染色体の精製を試み、その原子間力顕微鏡観察を実施する。出芽酵母からミニ染色体を精製し、複製フォーク付近の新生鎖クロマチン構造を解析する。AFMの可視化解析により、クロマチン構造が、ヌクレオソームの“beads-on-a-string”構造なのか、30-nm程度の直径の“クロマチンファイバー構造”なのか、ファイバー構造であるならばその凝縮度はどの程度かを、leading鎖、lagging鎖のそれぞれについてAFM画像から測定する。以前にアセチル化によるクロマチン脱凝縮などを検出した経験を応用し、新生鎖クロマチンの特徴(ファイバー直径や、ヌクレオソーム間の距離)を測定し、凝縮度の判定や構造の特徴の同定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験を実施するにあたって、大学の共通機器室の設備を利用するなどの代替手段を講じるなどにより、当初予定していたオートクレーブの購入を見送ったこと、新型コロナウイルスの影響で3月に予定していた学会出張が取りやめとなったことなどから、当初の予定よりも予算の使用額は少なくなった。しかし、本年度の研究を踏まえ、来年度以降に実験試薬(タンパク質精製試薬やカラムなど)を追加で購入の必要が生じているため、次年度以降、この予算として充当する。
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