研究課題
令和2年度は、高度好塩性好アルカリ性古細菌ナトロノモナスを使用したUV照射変異実験を中心にプレート単位での大量培養、ゲノムDNA抽出とゲノムシーケンス解析を行った。UV照射実験では、照射位置におけるUV線量を正確に測定する目的で、UV照射光(クロスリンカーのUV蛍光管を1本に減らして使用)が安定化した後に、リモートで開閉する装置を作成した。この際に、UV変異を導入する菌懸濁液のセット位置付近にUV線量計を設置して、実際に照射したUV線量をエネルギー量(J/m2)として確認できるように工夫した。この装置を使って、未照射群(UV照射装置に入れて1分ほどおいたが、蓋を開かなかった試料)と大まかに3段階の異なるエネルギー群(15, 50, 100 J/m2)に分けて照射する実験を独立して30回程度繰り返し行った。4つの群それぞれから90サンプルをランダムに抽出して、合計360サンプルからゲノムライブラリー調製を行った。ここでは、96のディープウェル用の振盪培養装置(一昨年導入)使って効率的に培養すると同時に、効率的な培養液の量と振盪条件に工夫を行った。それに続くゲノムDNA調製も、96プレートのまま進められるプロトコルを更にチューニングした。さらに、昨年度に工夫したビーズ上でタグメンテーションを行うライブラリー調製法を96プレート単位で行ことで、効率的な大量ライブラリー調製方法が完成した。ゲノムDNAの段階とライブラリー作成の最後の段階で96サンプルすべてにおいて、そのDNA量をサイバーグリーンによる蛍光法で定量し、最後のライブラリーはキャピラリーシーケンサーを使用してDNAのサイズ分布も調べた。シーケンス結果は、まだ戻ってきていないので、解析できていない。
3: やや遅れている
令和2年度は、新型コロナウイルス感染防止対策による学生、研究員の実験制限による遅延と、申請者のエフォートの変化(リモート授業準備など)の影響が大きく出て、細かいトラブルシューティングに対して、迅速な対応ができなかった。また、経費節減のためシーケンス解析を外注しているが、サンプル輸送に関する時間が、これまでより長くかかっている。
当初の予定の順序とは逆になるが、まず好塩性古細菌の変異体を大量に作成し、そのゲノム構造を1000株ほど決める作業を続けると同時に、続いて真正細菌(Vibrio)のUV変異導入ーゲノム解析の実験を行う。余裕があれば、真核微生物(Schizosaccharomyces pombe)も比較対象に加えたい。また、作成した変異体を保存する方法(グリセロール冷凍保管)を工夫すると同時に、すべての作成した古細菌変異株の走性に関するスクリーニング実験を行う。さらに、スクリーニング方法を工夫して、いくつかの表現型(抗生物質耐性、栄養要求性、窒素飢餓応答等)に対して、作成した同じ変異体ライブラリー(1000クローン)を使ってスクリーニングし、ゲノムシーケンス配列と直結した絞り込み作業を行う。これによって、それぞれの表現型が持つシステムサイズを見積もる。この段階では、各表現型の詳細には入り込まず、1000種類程度のランダム変異体ライブラリー(平均、10箇所程度に変異を持つ)のスクリーニング効率を検証することを第一目標にする。また、リソースの保存方法にも注意を払い、-80℃での保存でどの程度再生してくるのか?についても半年から1年ごとに調べ、これに関してもゲノム変異との相関を見る。ビーズ上で行うタグメンテーション法は、市販の試薬を準用しているが、これにコストがかかる。そのため、大腸菌で発現したTn5トランスポゼース(ここまでは構築済み)をアビジンビーズ上に固定化する作業までを自作しようと計画に加えた。現在、1サンプルのゲノム解析にトータル1200円程度かかっているが、この作業によって500円以下にできるので、少し回り道してでも自作Tn5-ビーズでのタグメンテーションライブラリー法を作成して、大量変異導入システム解析の基盤を作りたい。変異体リストは、データベース化し、公開する予定である。
新型コロナウイルス流行のため、学会発表がことごとく中止またはリモート形式となり、旅費分など次年度に繰り越した。また、シーケンス外注も年度末ギリギリだったため、処理が次年度に繰り越しになったため。
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