研究課題/領域番号 |
19K06628
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
河口 真一 大阪大学, 生命機能研究科, 助教 (40321749)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | エピトランスクリプトーム / 塩基修飾 / 生殖幹細胞 / ナノポア / Direct-mRNA-seq |
研究実績の概要 |
mRNAの塩基は、転写と同時期にメチル化などの様々な修飾を受けるものがあり、その後のプロセシングなどに影響する。本研究の目的は、ショウジョウバエの生殖幹細胞をモデル系として、mRNAの塩基修飾による生殖幹細胞の維持と分化の制御機構を解明することである。前年度までに、対照となる培養体細胞(S2株)と成熟した卵巣を用いて、mRNAサンプル調製、及び解析システムの構築を行っている。 今年度は、ショウジョウバエの生殖幹細胞のmRNA塩基修飾解析を試みた。PCR増幅を行わないナノポア Direct-mRNA-seq解析は、比較的大量の精製mRNAを必要とすることから、希少な生殖幹細胞を解析することは困難である。そこで、ショウジョウバエの生殖幹細胞の分化が損なわれているbam変異体から、生殖幹細胞様の未分化な細胞を多く含む卵巣を調製した。この卵巣サンプルからRNAを抽出し、mRNA精製、ライブラリー調製を行った。オックスフォード ナノポア社の第4世代シークエンサーを用いて、1分子毎に塩基配列を決定すると同時に、塩基修飾解析用に開発されているプログラム(Tombo)を用いて、一塩基分解能で修飾の有無を解析した。 ショウジョウバエ由来の培養体細胞(S2株)、成熟した卵巣、及び生殖幹細胞様の未分化な細胞において、mRNA塩基の修飾が多く見られる遺伝子を抽出して比較した結果、スフィンゴ脂質活性化タンパク質が、どの細胞種でも比較的多くの修飾を受けていることが示唆された。また、生殖幹細胞様の未分化な細胞では、翻訳伸長因子やアクチンをコードするmRNA上に塩基修飾が多く見られた。生殖細胞の発生過程では、哺育細胞が多くのmRNAやタンパク質を産生し、卵母細胞に供給しているが、その過程で大量に必要となる翻訳伸長因子のmRNAは塩基修飾を受け、安定性が増加していることが推察される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の計画通り、生殖幹細胞様の未分化な細胞を多く含む卵巣から、mRNAを調製し、ナノポア装置を用いたDirect-RNA-seq解析を行った。bam変異体の卵巣は非常に小さいため、サンプル調製は困難であったが、最低限必要なmRNAを得ることができた。今後は、さらに大量のmRNAを調製することによって、Direct-mRNA-seqの解析リード数を増やし、データの信頼性を高める。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、生殖幹細胞様の未分化な細胞のmRNA塩基修飾を解析し、対照となる培養体細胞(S2株)や成熟した卵巣由来のmRNA塩基修飾と比較することによって、修飾を多く受けている遺伝子の候補を得ることができた。しかしながら、現在のところ、どの様な塩基修飾であるのか同定はできていない。ナノポア法で得られる測定データから塩基修飾を推定するプログラムも開発されているので、その解析ツールを導入し、5mCや6mAなどの主要な塩基修飾を推定することを行う予定である。また、参照するデータベース配列と、実際のmRNA配列が異なっている場合、塩基修飾解析の精度が下がると考えられる。そこで、ライブラリー作成に用いるmRNAをcDNA化して、その塩基配列を決定する。データベース配列に依存せず、実際に解析したライブラリーの塩基配列を参照することによって、塩基修飾の精度が高まると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
生殖幹細胞様の未分化な細胞を多く含む卵巣から、mRNAを調製し、ナノポア装置を用いたDirect-RNA-seq解析を行った。bam変異体の卵巣は非常に小さいため、サンプル調製は困難であったが、最低限必要なmRNAを得ることができた。ナノポア解析に必要なRNAサンプルを複数回分調製することを試みたが十分な量は得られていない。それに伴い、RNAライブラリー調製試薬とナノポア解析に必要なフローセルを次年度に購入することとした。翌年度は、RNA解析に加えて、cDNAとゲノムDNAの解析を行うので、当初申請した助成金が必要である。
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