研究実績の概要 |
mRNAの塩基は、転写と同時期にメチル化などの様々な修飾を受けるものがあり、その後のプロセシングなどに影響する。本研究の目的は、ショウジョウバエの生殖幹細胞をモデル系として、mRNAの塩基修飾による生殖幹細胞の維持と分化の制御機構を解明することである。前年度までに、ショウジョウバエ由来の培養体細胞(S2細胞)、成熟した卵巣、及び生殖幹細胞様の未分化な細胞のそれぞれから、RNAを抽出し、オックスフォード ナノポア社の第4世代シークエンサーを用いて、塩基修飾の有無を一塩基分解能で解析している。 塩基修飾はスプライシングの部位を制御する例が報告されている。そこで今年度は、塩基修飾部位とスプライシングの関係性を明らかにする目的で、遺伝子アイソフォームの発現解析を行なった。成熟した卵巣由来細胞と生殖幹細胞様の未分化な細胞由来のmRNAを比較して、スプライシングのパターンが変化している遺伝子を、約600個同定した。遺伝子のアイソフォームを考慮しないmRNA発現量解析では、有意な発現変動を示す約5,800個の遺伝子が検出されるが、アイソフォームを考慮した場合には、さらに244個の遺伝子が変化していることが明らかになった。mRNAの塩基修飾解析とアイソフォーム変動解析とを統合して、塩基修飾がスプライシングに影響を及ぼすかどうか検討した。その結果、代謝系酵素の1つであるMen-bの3’UTRが、生殖幹細胞様の未分化な細胞では約800塩基長くなっていること、さらに、その領域内において、塩基修飾の程度が高くなっていることが明らかになった。即ち、Men-b遺伝子の3’UTRにおいて、塩基修飾がスプライシング部位を変化させ、細胞種特異的なアイソフォームを安定化させていることが示唆された。
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