昨年度までに、2つのDNA修復経路であるHDRとNHEJが生じた細胞を蛍光標識で識別可能なレポーター細胞を作成した。今年度は、この細胞に対して、CRISPR-Cas9を誘導し、さらにHEK293T細胞由来cDNAレンチウイルスライブラリを導入して、HDR(またはNHEJ)が生じた細胞に含まれる遺伝子の発現解析を行った。昨年度までは分取した細胞のゲノムDNAを鋳型にレンチウイルスベクター由来のプライマーを用いて対象遺伝子の増幅を試みたが、PCR増幅において安定した結果を得ることが困難だったため、RNA-seqによる遺伝子発現解析に変更した。細胞の分取については独立して5回の実験を行い、HDRを生じた細胞、あるいはNHEJを生じた細胞のそれぞれから、total RNAを抽出した。シーケンスライブラリを作成後、DNB-SEQ(MGI)によりRNA-seq解析を行い、遺伝子発現量(TPM)を指標にした発現解析、およびfold changeを指標にした発現解析を実施した。HDRが生じている細胞集団とNHEJが生じている細胞集団において発現遺伝子の比較を行ったところ、HDRが生じている細胞集団で発現量の高い遺伝子を複数同定することに成功した。今後は、これらの候補因子がHDR亢進機能があるかについてHEK293T細胞にCRISPR-Cas9を誘導して候補因子を過剰発現させた実験系あるいは候補因子についてガイドRNAを設計し、機能を欠失させた実験系により検証していく。
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