研究課題/領域番号 |
19K06638
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
伊藤 俊樹 神戸大学, バイオシグナル総合研究センター, 教授 (30313092)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞膜 / アクチン細胞骨格 / 細胞運動 / F-BARドメイン / がん |
研究実績の概要 |
運動する細胞において「広がった細胞膜が退縮すること」は重要であり、伸展した細胞膜の形状や張力を感知してRacをオフにするフィードバック制御の存在が示唆される。本研究では「伸展した細胞膜の形状と張力を感知してアクチン重合のネガティブフィードバック制御を行う分子実体」「広がった細胞膜を退縮させ、細胞形態の統一性と可変性を支える自律的なメカニズム」を明らかにするため、F-BARドメインファミリーに属する「srGAP」に着目する。このタンパクは膜の凹面を認識するF-BARドメインと、Racに対するGAPドメインを持つ。予備実験から、srGAP1のF-BARドメインは広がった細胞膜の先端部分に特異的に局在することが観察されている。細胞の運動先端の膜には高い張力がかかっているだけでなく、細胞質側の表面は高度な凹面構造を呈している。そこで本研究では「srGAPが伸展した細胞膜の形状を感知して退縮させるメカニズムを明らかにすること」を目的とする。 本年度においては、前年度までに行ったマトリゲルを用いたヒト癌細胞の浸潤能アッセイにより見出された、浸潤能への寄与が確認されたsrGAP分子種について検討した。GFPタグを付加したコンストラクトをCOS-7細胞に発現したところ、Racの抑制活性と合致する結果として、細胞体の極度な退縮が認められた。そこで、GAP活性を失う変異体を用いて解析したところ、細胞運動における後方の退縮膜側に選択的に局在することが明らかとなった。次に、この局在機構におけるイノシトールリン脂質の役割を検討するため、PIP2脱リン酸化酵素を誘導的に膜移行させた。その結果、このsrGAP分子のF-BAR+FXドメインを介した細胞膜への局在が減弱することが観察された。このことは、単なる膜の曲率だけではなく、膜直下のアクチン細胞骨格構造にも依存する膜局在機構の存在を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までに明らかにした知見をもとに、詳細な分子メカニズムに切り込む成果が得られたため。同定した分子が実際にRacを負に制御する傍証が得られたこと、また細胞運動に必須な後方膜の退縮を支える分子機構がリン脂質の役割を踏まえて議論できるようになったこと、などが本研究の進捗に貢献したと考えられるため。
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今後の研究の推進方策 |
本現象における細胞膜張力の役割を明らかにする。そのため、ヒト浸潤性がん細胞を用いたノックダウンとレスキュー実験を行い、光ピンセット法を用いて膜張力の測定を行う。RacおよびRhoのノックダウン実験、PIP2脱リン酸化酵素によるPIP2の制御と合わせて膜張力の検討を行い、最終的な機能モデルの導出を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症の影響により、旅費の支出がなくなったため。また、想定よりも順調に実験が進んだ結果、トラブルシューティングのための予算が縮減されたため。さらに、効率の良い実験作業の工夫と、より安価な実験手法の開発を行ったことも要因と考えられる。次年度はノックダウン実験等に多くの予算を必要とすることから、これらの工夫が奏功することが期待される。
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