研究課題/領域番号 |
19K06639
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
末次 京子 (塙京子) 同志社大学, 研究開発推進機構, 准教授 (40391990)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | I-BAR / ラメリポディア / フィロポディア / 細胞突起 / 細胞外小胞 / 細胞間コミュニケーション |
研究実績の概要 |
IRSp53はI-BAR ドメインを持つタンパク質である。I-BARタンパク質はαヘリックスバンドルから出来ており、水溶液中ではI-BAR ドメイン同士が結合しバナナのような湾曲した安定な二量体を作る。この二量体の立体構造の片面には正電荷を持つアミノ酸がクラスターを作っており、負電荷を持つ脂質と結合することが出来る。また、I-BARドメイン同士は重合し、チューブのような立体構造を作ることが出来る。このI-BARタンパク質から作られるチューブ構造の外側に正電荷のアミノ酸が局在しており、I-BARタンパク質の立体構造を鋳型とするように脂質が結合し、結果的に脂質膜のチューブ構造が作ができる。実際の細胞では、刺激に応じて出来るフィロポディアやラメリポディアの細胞膜表面突起構造にI-BARタンパク質が確認されている。本研究ではこのI-BARによって作られる細胞表面に造られる細胞膜突起構造が切断される事により細胞外小胞が作られるのではないか、というこれまでにない細胞外小胞形成分子メカニズムを提唱し、検証を行なってきてる。 昨年度から引き続き、IRSp53ノックアウトマウス、およびクリスパーCas9の系を用いて作成したCa9, HeLa, U251細胞のIRSp53のノックアウト細胞の分析を行なってきた。その結果、IRSp53を含むI-BARタンパク質が細胞外小胞形成の一端を担っていることを明らかにすることが出来、これまでにない新しい細胞外小胞形成の分子メカニズムを提唱することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今回、申請者を含む研究グループにより、IRSp53を含むI-BARタンパク質により細胞外表面に作られた細胞突起が切断される事により細胞外小胞が作られる事、また細胞外突起が切断される力は血流などの体液の循環で起こるわずかな力で十分である事、またI-BARで作られる細胞外小胞に含まれる脂質膜にはリゾ脂質が含まれる事、ヒトの細胞をマウスの皮下に移植しIRSp53依存的に移植したヒト細胞由来のものが周囲のマウスの組織に拡散していく様子を示すなどをまとめ、これまでにない細胞外小胞が作られる分子メカニズムを明らかにし、論文として発表することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、IRSp53は細胞膜突起形成を誘導するタンパク質であり、さらにその突起が切れる事により、細胞外小胞を形成させる機能も持つことを明らかにしてきた。IRSp53は細胞の中でも脳での発現量が多いことがわかっている。事実、IRSp53は特にポストシナプスにおいて発現量が3番目に多いタンパク質と見積もられている。神経細胞はまさに突起だらけの細胞と言っても過言てはない形体をしている。これまでの研究を踏まえ考えるなら、神経細胞においても、刺激に応じてIRSp53は細胞膜突起構造を作り、さらに細胞外小胞形成に関与していると考えられる。しかしIRSp53は細胞表面ではなく、ポストシナプス の奥の方に多く局在していることが確認されている。この事実は、これまでのIRSp53は細胞表面に局在し細胞外突起を作るという機能と簡単に結びつけることが出来ない。 今後、マウス海馬神経細胞を用いてshRNAによりIRSp53のノックダウンを行い、神経細胞形成におけるIRSp53の役割をこれまでの生化学、細胞形態学からだけでなく、電気生理学の手法も用いて明らかにしていく予定である。
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