研究課題/領域番号 |
19K06640
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松沢 健司 九州大学, 理学研究院, 講師 (30778668)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 上皮細胞接着 / 細胞間コミュニケーション / 集団細胞運動 |
研究実績の概要 |
上皮細胞や血管内皮細胞など細胞が互いに接着して細胞集団を形成する組織では、細胞間で絶えず張力が発揮されており、組織内の個々の細胞には組織にかかる力に適切に応答する能力が求められる。申請者はこれまで細胞集団が協調して運動する現象(集団細胞運動)について研究を進めてきた。集団細胞運動において、細胞間における張力の伝達に関与する因子として細胞接着タンパク質αカテニンに着目し、αカテニンの細胞間の張力に応じた構造の変化が、協調的で効率の良い集団細胞運動の実現に必須であることを明らかにした。本研究は、集団細胞運動において細胞間に働く力がもたらす細胞接着の可塑的変化に着目し、細胞集団の協調的な振る舞いを可能にする分子機構を力学的シグナルと生化学シグナルの両方の視点から解き明かすことで、全体像の解明を目的としている。 本年度は、上皮組織内の細胞同士が引っ張り合う力の均衡が、どのようにして保たれているかについて研究を進めた。上皮細胞の細胞間接着部位には、MAGI、RASSF、ASPPの3種類の遺伝子からなるタンパク質複合体が局在し、上皮細胞シートの張力の均衡を保つ上で必要であることを明らかにした。これらの遺伝子を欠損した上皮細胞のシートは、細胞同士が引っ張り合う力の均衡が破れて、細胞シートを構成する細胞のサイズが不均一になる。MAGI、RASSF、ASPPの3者複合体は、隣接した上皮細胞間において、それぞれの細胞の収縮力を制御するミオシンの活性が等しくなるように調整する役割を担っていることを明らかにした。これらの研究成果は、Communications Biology誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究課題の具体的な目的は2つである。 1) αカテニンの張力依存的な構造変化を起点とするAJの可塑性は集団細胞運動の制御にどう寄与しているのか? 2) 張力を感知する分子メカニズムは生化学シグナルの伝播現象とどのように統合されているのか? これらの課題に対して、当初の計画に沿って順調に進展している。上述の研究成果に加えて、昨年度の報告書に記載の通り、αカテニンの細胞間の張力に応じた構造の変化によって細胞接着に局在化する分子として、LIMDを新たに同定している。現在は、LIMDとLIMDが属するAjubaファミリータンパク質の他の因子についてもノックアウトした上皮細胞株が樹立されており、機能的な評価を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
課題1に関して 本年度得られた知見をもとに、集団細胞運動におけるLIMDの機能解析を進める。CRISPR-Cas9法によってLIMDをノックアウトした上皮細胞株を樹立しており、ノックアウト細胞と野生型細胞の細胞集団の運動能などを評価していく。また、人工的に細胞に張力を印加できる装置の開発に着手しており、それを用いて様々な機能的な評価を行うことで、上皮細胞が持つ張力応答機構の生理的な意義について明らかにしたい。加えて、LIMDが属するAjubaファミリータンパク質の他の因子についても同様に検証を進めたい。 課題2に関して 細胞内カルシウムイオンのダイナミクスが、細胞集団運動においてどのような役割を担っているのかを明らかにするには、階層的クラスター分析などのデータ解析手法を駆使し、細胞集団に存在する異なる集合体の特性を多角的に示す必要がある。よって、様々な解析手法の妥当性の検討を現在進めている。また、集団細胞運動における、接着を介した機械シグナルと生化学シグナルのクロストークという観点から、前述のαカテニンの構造変異体を発現した細胞や、関連する分子を欠損させた細胞で細胞内カルシウムイオンの動態を観察する準備を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
報道なども多くされているように、コロナ禍の影響でポリスチレンやポリプロピレンなど、細胞培養で使われる消耗品の原材料が、世界的に不足している。代替品の検討も行っているが、結果として現在に至るまで納品が大幅に遅れている。加えて、参加を予定していた学会が中止になったことも重なり、次年度使用額が生じることになった。 次年度は、使用を予定する消耗品の納入目途が立ち次第、必要十分量を早期に確保することに対して次年度使用額を宛がい、実験への影響を最低限にとどめたい。
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