上皮細胞のシートは、私たち多細胞生物の表面を覆い、外界と体内を分け隔てる障壁として機能する。このように上皮組織の恒常性に直結する上皮細胞シートの完全性は、様々な生命現象が協調的に進行することにより支えられている。本研究提案では、細胞間に働く力がもたらす細胞接着の可塑的変化を基軸に、「集団を構成する細胞がどのような分子機構で協調性を獲得しているか」、という問題の解明を目指した。昨年度までに、MAGI、RASSF、ASPPの3種類の遺伝子からなるタンパク質複合体が、上皮細胞の細胞間接着部位に局在し、上皮細胞シートの張力の均衡を保つ上で必要であることを明らかにした。一方で細胞のシートの中には、3つの細胞が接する点が多数存在する。このような3つの細胞間の隙間が大きくなると、病原体などの異物が体内に侵入したり、体内の水分が体の外に出て行ってしまったりするため、3細胞間に生じる隙間はできる限り小さくする保つ必要がある。そこで、今年度はこのような3つの細胞の隙間を形成するために必要なタンパク質Tricellulinに着目し、機能解析をおこなった。まず、3つの細胞が接着する領域において2つの細胞間の接着面に由来するアクチン線維同士が交叉するように走行していることを見出した。この交叉する領域に集積したミオシンがアクチン線維同士を滑りこませることで、靴紐を締めるように、3つの細胞が接着する領域にアクチン線維を引っ張る。Tricellulinがこのアクトミオシン骨格と相互作用することによって、トリセルリンと共に接着構造を形成するクローディンが3つの細胞接着領域に引き寄せされるため、3つの細胞間に生じる隙間が小さく保たれていることが明らかにした。
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