研究課題/領域番号 |
19K06644
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
千葉 秀平 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (60572493)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 一次繊毛 / 繊毛症 / 膨張顕微鏡 / 超解像顕微鏡 / 基底小体 / アクチン細胞骨格 / 親中心小体-基底小体変換 / CPLANE |
研究実績の概要 |
薬剤投与による分岐状アクチン線維網の消失は一次繊毛形成を促進するという報告の一方、分岐状アクチン線維網形成において中心的な役割を担うACTR2の発現抑制は繊毛構築を阻害するという相反した結果も存在し、繊毛形成過程におけるアクチン線維の役割は明確とは言えない。本研究では超解像顕微鏡 (SR-M)と膨張顕微鏡法 (ExM)の併用から実現したサブナノスケールの解析手法から、繊毛形成前の母中心小体近傍に未報告のアクチン構造を発見したことを足がかりとして、その繊毛形成における役割の解明を目指し解析を行った。 本年度は当初の研究計画に従い、中心体近傍アクチンの足場となる分子基盤の解明を目指して解析を行った。解析にあたって、各種母中心小体関連因子についてsiRNAによるノックダウン法とCRISPR-Cas9システムに基づくノックアウト (KO)実験を行い、一次繊毛形成への影響並びに中心体近傍アクチン構造に与える影響を検証した。この結果、すでに一次繊毛形成への関与が報告されている複数の分子について、そのノックアウト細胞では中心体近傍アクチンの形成が阻害されることを見出した。さらに、繊毛小胞のマーカーであるMyosinVaを用いて、一次繊毛形成過程を超解像顕微鏡にて観察した結果、対象因子のKO細胞株では、アクチン重合反応に基づくと想定される血清飢餓依存的な繊毛小胞の中心体近傍への集積が顕著に阻害されることを見出した。プロテオミクス解析に基づき対象因子の相互作用タンパク質解析を遂行した結果、配列内にankyrin repeat domainとアクチン配列を含む因子を同定し、中心体近傍アクチン制御の分子基盤の解明へと近づいた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に基づき、主要な母中心小体関連因子についてsiRNAを用いた発現抑制を行い、中心体近傍のアクチン構造に対する影響を評価した。しかしながら、一部の母中心体構成因子は代謝回転速度が律速となり十分なノックダウン効果を得られなかったため、中心体近傍のアクチン構造に対する影響を正確に評価できなかった。そこで、CRISPR-Cas9システムによって構築した各種母中心体関連因子について、SR-MとExMを組み合わせた超解像イメージング解析を行った結果、ごく最近、一次繊毛形成に関与することが報告された因子のKO細胞では母中心体近傍のアクチン構造が消失することを見出した。 一次繊毛形成では血清飢餓などの増殖阻害シグナルに伴って、中心体近傍には繊毛小胞が形成されたのち、中心体はCP110やCEP97といったキャッピング因子の解離を経て、基底小体へと変換される。対象因子のKO細胞ではCP110やCEP97, MPP7といった中心体キャッピング因子の解離は対照細胞と同様に起こることから、中心体-基底小体変換機構への関与はないことが明らかになった。次に、MyosinVaを用いて一連の一次繊毛形成過程を追跡した結果、対象因子のKO細胞株では血清飢餓依存的な繊毛小胞の中心体近傍への集積過程が顕著に阻害されることを見出した。次に、プロテオミクス解析に基づいた対象因子の相互作用タンパク質解析を遂行した結果、配列内にankyrin repeat domainとアクチン配列を含む因子 (ANKRD and actin containing protein: AACPと呼ぶ)を同定した。現時点で、AACPの一次繊毛形成における役割や中心体近傍アクチン制御への関与については不明であるが、当初の研究計画に基づき概ね順調に研究が進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
現時点で、中心体近傍アクチン構造の形成を担う分子基盤や一次繊毛形成過程でのダイナミクス制御機構については不明な点が多く残っている。本研究では、母中心体関連因子の相互作用因子としてAACPを見出したが、現時点ではその一次繊毛形成における役割や中心体近傍アクチン構造形成における役割は不明である。そこで今後の解析では、母中心小体関連因子とAACPの相互作用実体を詳細に解析するとともに、AACPのKO細胞を構築し、一次繊毛形成ならびに中心体近傍アクチン構造の構築における役割を明らかにしていく。 母中心小体が基底小体へと変換される過程では、母中心小体の遠位末端近傍でPhosphatidylinositol 4,5-bisphosphate [PI(4,5)P2]レベルの上昇を制御するPIP5キナーゼと、PIP5脱リン酸化酵素(INPP5E)の空間配置がダイナミックに再編されることが報告されている。PI(4,5)P2は局所的なアクチン重合を促進することが知られる。そこで、PIP5キナーゼとINPP5Eの中心体上での空間配置が中心体近傍アクチンの動態を制御するとの作業仮説に基づき、中心体近傍アクチン動態変化や親中心小体関連因子-AACP経路との関連性について検証を行っていく。
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