研究課題/領域番号 |
19K06645
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
吉田 秀郎 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 教授 (60378528)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ゴルジ体 / ストレス / プロテオグリカン / ムチン / コレステロール / 神経変性疾患 / TFE3 / KLF |
研究実績の概要 |
細胞小器官の量的調節機構は、細胞が自律的に機能するために必須の機構であり、その分子機構の解明は細胞生物学の重要な研究課題である。ゴルジ体ストレス応答はゴルジ体の量的調節機構であり、研究代表者が世界に先駆けて切り拓いた研究分野である。本研究課題の開始前までに、ヒトのゴルジ体ストレス応答の分子機構として、4つの応答経路(TFE3経路とプロテオグリカン経路、ムチン経路、コレステロール系)を発見し、本研究課題ではこれら4経路の制御因子を同定することによってその分子機構を明らかにしようとしている。前年度に行ったGeCKOスクリーニングによって、コレステロール経路の制御因子としてPITPNBを単離していたが、今年度はPITPNBのノックアウト細胞を作製し、ノックアウト細胞ではコレステロール経路依存的な転写誘導や細胞死が起こらないことを見出した。PITPNBは小胞体からゴルジ体へPIを輸送するタンパク質であるが、昨年度のGeCKOスクリーニングではPITPNB以外にもゴルジ体でのPI代謝に関与するタンパク質が同定されており、ゴルジ体でのPI代謝がコレステロール経路の活性化を制御している可能性が見えてきた。次年度は、これらPITPNB以外のPI代謝関連タンパク質遺伝子のノックアウト細胞も作製し、コレステロール経路の活性化が阻害されているかどうか調べる予定である。また、ムチン経路を制御する転写因子を酵母one hybrid法によって検索したところ、複数の転写因子候補を得ることができた。現在、これらの転写因子を過剰発現させたり、ノックアウト細胞を作製することによって転写因子であるかどうかの確認実験を行っているところである。TFE3経路のセンサー分子をsiRNAライブラリーを用いて同定しようとしているが、まだスクリーニングに用いるTFE3-GFP細胞の良いものが取れておらず、苦労している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
コレステロール経路に関しては、経路の活性化に関わる因子としてPITPNBの単離に成功し、ノックアウト細胞を用いた確認実験も行うことができた。ノックアウト細胞にPITPNB遺伝子を戻す実験も行ったところ、コレステロール経路の活性化も戻ることから、PITPNBがコレステロール経路の活性化に必須であることは確実である。GeCKOスクリーニングで取れてきた他の因子もゴルジ体でのPI代謝に関わることから、ゴルジ体でのPI代謝がコレステロール経路の活性化に重要な役割を果たしていることはほぼ確実と思われる。このように、ゴルジ体ストレスの分子的実体が明らかになったことは画期的であり、この点については本研究課題は当初の計画以上に進展していると考えている。但し、TFE3経路の制御因子のスクリーニングに必要なTFE3-GFP細胞は、TFE3-GFPの発現量の調節が難しく、発現しすぎるとTFE3-GFPが常に活性化してしまって使えず、発現を下げすぎるとTFE3-GFPの蛍光を検出することができない。そこで現在は、GFPの代わりにもっと蛍光の強いmNeonGreenやtdTomatoを使ってスクリーニング細胞を樹立することを試みている。プロテオグリカン経路を制御する転写因子KLF2とKLF4に関してノックアウト細胞を作製したが、DKO細胞でもプロテオグリカン経路による転写誘導はほとんど抑制できなかった。KLF familyの転写因子は17個あることから、他のKLFも関与している可能性がある。今後は、プロテオグリカン経路でもGeCKOスクリーニングを行って転写因子やセンサー分子などの制御因子を同定する計画である。ムチン経路に関しては、エンハンサー配列MGSEに結合する転写因子の候補を同定できた。今後は、これらの転写因子候補が転写誘導にどの程度貢献しているかノックアウト細胞を用いて検討する。
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今後の研究の推進方策 |
コレステロール経路に関しては、ゴルジ体のPI代謝に関わる遺伝子のノックアウト細胞の解析を進めるとともに、なぜPI代謝がコレステロール経路を活性化するのかについて解析を進める。GeCKOスクリーニングで取れているPI代謝関連因子以外の因子についても解析を進める。コレステロール経路でPI代謝が以上になるのは、OSBPやOSBP2の関与が考えられるので、この点に関しては東京農工大学の養王田正文博士と櫻井香里博士との共同研究を進める。TFE3経路については、siRNAライブラリースクリーニングに必要なTFE3-tdTomato細胞を構築している。細胞のゲノムDNAヘの組み込み効率は、transposaseを用いることで高効率に行うことができるようになった。染色体外で複製できるプラスミドも試みたが、細胞への形質転換効率が高くないため、こちらは保留にしている。TFE3経路でもGeCKOスクリーニングを行う。但し、レンチウイルスを用いたGeCKOライブラリーの作製をお願いしていた共同研究先の国立感染症研究所の花田賢太郎博士の研究室が新型コロナのワクチン輸入の件で多忙であるため、こちらで独自にレンチウイルスの実験系を立ち上げている。現在、P2施設の立ち上げを行っている。この目的のために安全キャビネットを導入する。ムチン経路に関しては、酵母one hybrid法で単離した転写因子の解析を進めるが、こちらに関してもGeCKOスクリーニングを行う予定である。プロテオグリカン経路に関してもGeCKOスクリーニングを行う。通常の細胞の生き死にでスクリーニングする方法に加えて、セルソーターを用いた方法も検討している。研究科に新しいセルソーターが導入されたので、こちらの機器を使用する。またKLF2/4 DKO細胞ではどのような標的遺伝子の転写が低下しているのかについてもRNA seqによって調べる。
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